Sato's Novel 2-2
History of Farland
「迷星の大陸」外伝
act.2
- 【語り部・アウグステ第4商店街在住トマス・エディット10才】
- 絶対に、絶対に嘘じゃない。
- 僕は見たんだ!
- 『レマの丘』で、僕は会ったんだ!
- 本当だよ!
- 嘘じゃないんだ!
- あの時、僕が、夢中で走り抜けていると、そこはもう山深い森の中だったんだ。
- 4日前から寝込んでいたお母さんが、ラーダの神官様に、治すには時間の掛かる病気って聞いて絶対に『オラン熱』だって思って、昔の王様も死んじゃったあの病気だって思って、僕、どうにかしなきゃって思って、薬を探すんだって、家を飛び出たんだ。
- でも、誰に聞いても、『オラン熱』の薬なんて知らなくて、みんな、「早く家に帰った方が良い」って言うんだ。
- 武器屋のザックも、宿屋のジョンもみんなみんな「お母さんが病気なんだから、近くにいてやりなさい」なんて言うんだ。
- 僕は嫌だって言った!
- だって、何もしないでただ、待っているなんてそんな事出来ない!
- だから僕は探すって決めたんだ!
- お母さんは僕が治すんだ!
- そのために戦うんだ!
- 『1000倍隊長エシャ』みたく強くないけど、『大陸の剣のクリス』みたく戦うんだって決めたんだ。
- だから僕は、僕の愛剣『ファーランド.mk2』を背に、薬がタダじゃ無いって言われた困るから、僕の宝物、『エシャと熊』の絵本を持って初めて、アウグステから外に出たんだ。
- だって、アウグステの人が知らないくらいだもん、他の街に行くしかないじゃないか!
- だから僕は、オートルを目指したんだ!
- うん、あの山の中にある街!
- そりゃ、何日も歩いたさ。
- 疲れたし、お腹もすいたんだ。
- でも、こうしている間にもお母さんが薬を待っていると思ったら、勇気がわいて、少しだけ悲しくなって、走るんだ。
- 夜は変な鳴き声がしたけど、ちょっと怖かったけどぜんぜん平気だったんだ。
- 本当だよ、嘘じゃないんだ!
- うん……、ちょっとだけ泣いたかもしれない……でも全然怖くなかったんだ。
- ようやく、オートルに着いた。
- 僕、色々聞いたんだ。
- でも……誰も……そんな薬…………知らないって言うんだ…………。
- 泣いてなんかない…………。
- ………………だって、ようやく何日も歩いて…………ようやくオートルに着いたんだよ…………なのに……みんな無いって言うんだ…………。
- そんなのあんまりだよ…………。
- だったら来なきゃ良かった…………。
- こうしている間にお母さん死んじゃうよ…………。
- …………、やっぱり泣いていたのかも知れない……、だって、酒場のみんな優しかったもの。
- うん、本当に優しかった。
- 今、主人がいないけど好きな物喰えって言ったり、え? 酒場の名前? ………………喰い寝れない……だったかな……ヤギ???? 忘れちゃったよ名前なんて……。
- そしたら、酒場の髭を生やしたおじさんの人が、
- 「そうだ、『オートル遺跡』にだったら何か在るかもしれない、今日はモンスターが出るといけないから明日お兄さんも一緒に言ってやろう」
- って言ったんだ。
- 『オートルの遺跡』に薬があるって言ったんだよ。
- 僕は嬉しくなって酒場を走って出たんだ!
- うん、後ろの方で何か言ってたけど、僕、急いでいたからしかたないよね。
- 中央広場、人形の案内板を見て、僕は直ぐに『オートルの遺跡』に向かったんだ。
- 夜中だったけど、怖くはないんだ。
- だってお母さんが助かるんだよ。
- 怖い訳ないじゃないか。
- 格好、坂は急だったけど、僕、がんばって登ったんだ。
- モンスターが出て怖くなかったかって?
- 大丈夫だよ、だって、『エシャはグリズリーに4回殴られたけど平気でした……立派ですね』って絵本にも書いてあるんだ。
- それに、僕の愛剣「ファーランド.mk2」だってある。みんなの持っている『Newファーアランド』は、樫の木だけど、僕のは栗の木で出来ているんだ。熱で曲がったりしないんだよ、だから平気なんだ。
- だから、周りも見ないで、後ろも見ないで、多分前も良く見てなかったと思う……。
- 怖い訳じゃないんだ。ホントだって、嘘じゃないよ!
- だから、モンスターなんていつでも来いって思ったんだ。
- そうしたら本当にモンスター、出ちゃたんだ。
- うん、目の前だった。
- 暗い、山道の中で、切り株に座ってた。
- 間違いなく敵だった。
- だって、僕の事、怒るんだ。
- 「こら、子供がこんな時間に何やってるの?」
- って…………。
- 僕は、背中の『ファーランド.mk2』を構えたんだ。だって、僕がお母さんの薬を取りに行こうとするのを邪魔するんだよ、きっと、魔王の手先だ、僕はそう思ったんだ。
- だって変だよ、銀色なんだよ、髪も目も、それが夜なのに光っているんだ。
- すごい綺麗に光っているんだ。
- 『エルフ』って知っているけど、どこか違うんだ。
- 怖がっていただけかな……、そう言われて見れば……モンスターにしては優しかったような気がする……。でも、その時はそう思ったんだ。
- だから、
- 「うるさい! 僕はエシャ隊長みたく強いんだ! この剣はクリスから貰ったんだぞ、命だけは助けてやるから、そこどいてよ」
- って言って、『ファーランド.mk2』を突きつけたんだ。
- そしたら、さすがの銀色の魔王の手先も、困ったみたいに、
- 「あらあらあら」
- って言ったんだ。
- でも、笑ってた…………。
- だから、
- 「本当だって、嘘じゃないよ!」
- って念を押したんだ。
- 「じゃあ、私は叶わないわね…………、で、そのエシャより強くて、クリスから剣を貰った『僕』が、こんな夜中に、こんな山奥に何の用なの?」
- 銀色の魔王の手先はさすがに僕にはかなわないって認めたんだ。 僕の大好きなエシャ隊長を知り合いみたいに呼び捨てにするのは気に入らなかったけど、僕は話したんだ。
- え? どうしてって?
- うん、だって、その銀色の魔王の手先、お母さんみたいに優しい顔して笑うんだよ、ずるいよね。涙まで拭いてくれるんだよ、すごいいい匂いのハンカチで……。
- 泣いたのかって……?
- な、泣いてないよ、き、きっとその銀色の魔王の手先が変な魔法を掛けたんだよ、だって歩きすぎて疲れた棒になった足も、石みたい張った肩も、すっかり治っちゃったんだ。
- そして、銀色の魔王の手先は言ったんだ。
- 「あの草はね、昔は、まだあの丘が『レマの丘』って言われる前には沢山生えていたの」
- そんな…………、ここまで来て、お母さんを助けられないなんて…………。
- 銀色の魔王の手先はそんな僕の目をそっと拭ってくれたんだ。
- 「ほら。ここまでがんばって来たんでしょう? 何も無いとは言っていないわ、今は、人も獣も鳥すらもたどり着けない崖の先にひっそりとその草は生えているわ、『エマ』に頼んでみなさい、きっと分かってくれるから」
- 銀色の魔王の手先はそっと僕の背を押して、行く先を教えてくれたんだ。
- 僕は走った。
- お母さんを助けなきゃ、そう思って走ったんだ。
- ようやく、小高い丘の上に着くと、そこには草なんて何もなくて、僕は座り込んだ。
- その先に見えるすごく高い崖の上に、確かに何か生えている。でも、そんな崖、登れやしないじゃないか…………。
- 「これじゃあ、お母さんを助けられないよ……」
- 本当に、どんどん涙が出てきた。
- 気がついたら、大声を上げて、お母さんを呼んで泣いていたんだ。
- そしたら、すごい風。
- 僕は振り向いたんだ。
- 目の前に、大きな輝くような緑の身体のドラゴン。
- お城くらい大きかった。
- うん、本当に怖くなかった。
- だって、すごい優しい目をしていて僕を見ているんだよ。
- 「どうしたの?」
- って目をして僕を見ているんだ。
- だから僕は言ったんだ。
- 「お母さんを助ける薬をください」
- って正直に言ったんだ。
- そしたら、ドラゴンはどこから出したのか、緑色の小さな茎を僕にくれたんだ。
- 僕は沢山、お礼をした。
- そして、1口、その茎を口に銜えたんだ。
- そしたら、頭が真っ白になって、気がついたらアウグステにいたんだ。
- あれ、僕、『レマの丘』にいたはずなのに…………そう思ったけど、早くお母さんを助けなきゃって思って帰って来たんだ。
- 本当だよ、嘘じゃないよ、僕、本当にドラゴンに薬を貰ったんだ。
- ほら、これがそうだよ、すごい味がするけど、絶対に直るよ、だから食べて見て!
- え? お母さんの病気は『オラン熱』じゃないの? 長く掛かるけど、良くなる?
- でも、これ食べたら、きっと直ぐに良くなるよ、だから、食べてよ、僕、一所懸命取ってきたんだよ。
- いいよ、お礼なんて、僕、お母さんに早く良くなってもらいたんだ。
- そして、もっと大人になったら、もう1回、あの銀色の魔王の手先と、緑色のドラゴンに会ってお礼を言うんだ。
- だから、ほら、食べて見てよ。
- ………………ね、病気、良くなったでしょ?
- あれ?
- お母さん?
- ………………………………………………………………もしかして、真っ白…………?
Commentary
解説
- 結局、彼女を出してしまいました。
- 本当なら、エマだけを出してしれっと行きたい所でしたが、なんせ、トマス君のあのテンション、あの酒場の女主人以外は相手に出来そうに無かったものですから…………(汗)
- ちなみにアウグステを二分する人気剣士、と言うかヒーローは、クリスとエシャです。
- エシャは子供に大人気ですが、クリスは年齢層を関係なく幅のある人気を誇っていると言う設定です。
- 尚、玩具のファーランドはアウグステ商店街でも今やダントツの人気アイテムで、わざわざオランからも買いに来るらしいです。
- ちなみにバッタ物も良く出回っているので、皆さん偽物を掴まされないように、メーカーに注意してお買い求めください。
- では、またの機会で!
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