Esqlima's Novel 2-3
いつか、君だけのための歌を
その3
- 遺跡から帰って、3日後。
- 「話がある、明日の夜10時、中央広場で待っている」
- と書かれた、マークからの短い手紙。
- 冒険者の店で、その手紙を受け取ったマリエールは、魔術師ギルドのエントランスで、頭を抱えて唸っていた。
- 「マリエール! 良かった無事で!……って、どうしたの? 真っ青な顔して」
- 駆け寄ってきたのはマリエールの妹弟子で、レイシュウの妻であるエミルファだった。
- マリエールはむくりと体を起こして、エミルファに無言で手紙を差し出す。
- 「まあ、これは……!?」
- 手紙を読んだエミルファは、真っ赤になった頬に両手を当てた。
- 「……わかんないのよ、私、彼に気に入られるようなことしたかな? って、思い当たる節が全然……、だって、どう考えたって、迷惑ばかりかけてたと思うし……」
- ブツブツ言っているマリエールの横で、
- 「うーん……」
- エミルファも腕を組んで考え出す。
- 「……こう言うのは、レイシュウが一番妥当な答えを出してくれると思うんだけどね?」
- とエミルファが首を竦めるとマリエールはガバッと身を起こして反論する。
- 「……嫌よ! だって彼の前で、容赦なくデコピンしたのよ? レイシュウ様、絶対面白がるに決まってるわ!」
- とマリエールは半泣きでいやいやする。
- 「ああ、わかるわ、それ……」
- と苦笑いのエミルファに、
- 「エミルファは奥さんに昇格したじゃないの? 私なんて元妹弟子のままだから、いつまでも子ども扱いよ……」
- と頬を膨らますマリエール。
- 「じゃあ、貴女がきちんと答えを出して、マークさんに答えてあげるべきじゃない? それが1人でできたら、さすがにあの人も黙って見てるしかできなくなると思うわ」
- とエミルファが窘める。
- 「……そ、そうね! 頑張ってみる、ありがとう、エミルファ」
- 意気込むマリエールに、
- 「どういたしまして……、頑張ってね」
- とエミルファは笑顔で手を振った。
- 中央広場の噴水が止まる、時刻は10時ちょうど。
- 考えに考えて、覚悟を決めた普段着姿のマリエールが、ランタンを掲げて、手紙の差出人・マークを探す。
- 「……来るとは思ってなかったから、驚いたよ」
- 声を掛けられた方へ振り向くと、そこには初めて出会った時の、冒険者姿のマークがいた。
- 「……え?」呼び出されたことよりも、彼の格好にマリエールは驚いて目を見張る。
- 「ちょっと待って……!? どういうこと?!」
- 「……明朝の船で故郷のロマールに帰るからお別れを言いたくて、……呼び出して悪かった」
- 彼の一言目は別れの言葉、二言目は謝罪。
- 完全に読みが外れたマリエールは、ただ躊躇するだけだった。
- 「あの遺跡でのことも謝りたくて、……怒鳴って悪かった」
- 彼の2度目の謝罪に、
- 「ううん、私こそ……、ごめんなさい」
- 反射的に答えてしまうほど、彼女は動揺していた。
- 「君にはずっと魔法で助けてもらってたのに、レイシュウ殿に叱られて、プライドも傷付いただろう? ……本当に悪かった」
- 彼の3度目の謝罪で、彼女は堪らず声を上げた。
- 「もう良い! ホントに馬鹿ね、私……!」
- 「え?!」
- 愕然とするマークに構わず、彼女は感情に任せて怒鳴り散らした。
- 「良くわかったわ! 貴方も私をからかって子ども扱いするのよね!? もう良いわ! ロマールでもどこへでも帰れば良いのよ!?」
- 怒りが制御できずに、マリエールはポロポロと涙を流しながら震えていた。
- 「違う、そうじゃない!」
- 今度はマークが声を上げた。
- 「……君にも俺の故郷を見て欲しい、そう言うつもりだったのに……、どうして話を聞かない!? だから君は子供扱いされる、ってことに、どうして気付かないんだ?!」
- マリエールのように怒鳴り散らさないが、言葉の端々に怒りが込められている、低く、重い声だった。
- しかし、
- 「……え? ええっ!?」
- マリエールは彼の怒りにではなく、言葉の一節に驚き、動揺していた。
- 「君にも俺の故郷を、……って!? それって?!」
- 耳まで真っ赤にして、あわあわと腕を振り回す。
- 「ちょっと……、危ないから、それ貸して!」
- マークは慌てて、マリエールからランタンを取り上げて、火を消す。
- 「良かった、ひっくり返さなくて……」
- 胸を撫で下ろすマークに、
- 「そっ……、それじゃ、お別れと言うのは?」
- マリエールが真っ赤なままで尋ねる。
- 「それは……、”君に振られたら、本当にお別れ”ってことだろう?」
- 最もな答えを返すマーク。
- 「わ、私……、あ、明日帰るなら、答え急がないと……、うーん……」
- 頭に血が上り切ってしまったマリエールは、仰向けにひっくり返った。
- 「え? ちょっと、マリエール!?」
- 驚いて詰め寄るマークの声は、彼女には聞こえていなかった。
- 「ホントに通りかかって良かった……」
- 気絶しているマリエールの額を濡らした布で拭きながら、エミルファは呟いた。
- ひっくり返ったマリエールを抱えて途方に暮れていたマークを、偶然通りかかった(じゃなくて、実は、ずっと2人の様子を見ていた)エミルファが見つけて、ラーダ神殿に担ぎ込んだのだ。
- 「ありがとうございます、どこもやってなくて、助かりました……」
- 「でも、告られてる途中で倒れちゃうなんて、ホントにお子様……、ごめんなさいね、マークさん」
- とエミルファは謝罪した。
- 「え? ……どうして俺の名前を?」
- マークの問いかけにエミルファは「うふふ……」と笑う。
- マリエールの頭から膝をゆっくり外して、長椅子に横たえると立ち上がった。
- 「お疲れでしょう? お茶を入れてきますね」
- 「それで、マリエールには、何と?」
- 香草を煎じた茶を手渡しながら、エミルファは経緯を尋ねる。
- 「……その前に、貴女は? マリエールの知り合いと言うのは、わかるのですが……」
- と警戒するマークに、
- 「あら、ごめんなさいね、つい……」
- エミルファは口元を押さえて、
- 「私はマリエールから聞いてるけど……、実際は、今日初めてお逢いしたのですものね?」
- と頷いた。
- 「はじめまして、マリエールの妹弟子でエミルファと申します、……先日貴方とマリエールを助けた……、じゃなくて様子を見に行ったレイシュウは、私の夫です」
- そこまで自己紹介して、静かに微笑む。
- 「じゃあ、レイシュウ殿が話していた、妻と言うのは……?」
- マークの問いにも、
- 「ええ、私ですね」
- とにこやかな笑みで答える。
- 「……貴女がレイシュウ殿に訴えてなかったら、俺達は?」
- さらに問い掛けるマークに、
- 「はい、夫のことですから、後2、3日は放置されていたかも……? ですね」
- と、今にも「ホホホ……」と笑いそうな雰囲気だった。
- 背中に冷たい何かが滑り降りたような気がして、マークは誤魔化すように手渡された茶を啜る。
- 「……それで、マリエールには、何と?」
- もう一度、エミルファから尋ねられる。
- マリエールはともかく、この夫婦には勝てる気がしない……! と観念したマークは肩を落としながら答えた。
- 「明朝の船で、一度ロマール、俺の故郷に帰るので、着いて来て欲しい、と」
- 「まあ、素敵……! で、マリエールは?」
- 両手を頬に当てるエミルファに、
- 「……返事を聞く前に、倒れられてしまって」
- マークはトホホ……、と苦笑い。エミルファは思わずズッコケてしまった。
- 「ああ、なるほど、そう言うことね……」
- 何とか立ち直ったエミルファも苦笑いだった。
- 「さて、邪魔者はそろそろ……」
- とエミルファはお茶の入ったポットをテーブルに置いて、立ち上がる。
- 「それじゃ、俺も……」
- とマークも立ち上がろうとするが、
- 「あら、逃がしませんよ?」
- エミルファに指1本で、肩を押さえ付けられてしまい、動けない!
- 「何を……!?」
- 傍でまだ伸びているマリエールを起こさないように、マークは声を抑えて驚き、睨み付ける。
- 「あらあら、この王子様は……、私の姉弟子様を篭絡しようとしてるのに、お目覚めのキスもせずに逃げ帰ろうだなんて……、怖気づきました?」
- と小さく呟く顔は、あからさまに作り笑いだった。
- 「朝の礼拝までは誰も来ないのですから、さっさと起こして告白し直したら如何です? ……恥ずかしくて見ていられないので、私はお暇しますけど?」
- 小声だけど、エミルファ、目が笑っていない。
- 「もし、ご希望とあれば、最高司祭様にお願いして、朝の礼拝の時間まで”神殿工事中”って、誰も入れないようにしますけど?」
- とか、
- 「2人とも、子供じゃあるまいし……! 貴方も、いっそのこと押し倒してしまえば良いのよ!?」
- と、小声で不埒なことを言い出すエミルファ。
- 「……そんなこと、できません!」
- と真っ赤になって怒るマーク。
- すると不意に肩を押さえていた指が離れた。
- 「あら、私としたことが……、からかい過ぎましたね、失礼致しました」
- と非礼を詫びる。
- 「……」
- 怒りの言葉だけを飲み込んで、マークはこれでもかと、怒りを込めてエミルファを睨み付ける。彼女は、手で口元を押さえて「ホホホ……」と笑う。そして、
- 「でもね……、そのくらいの覚悟で挑まないと、伝わるものも伝わらないでしょ?」
- と言い、エミルファは長椅子を見る、マリエールはまだ伸びていた。
- 「それでなくても鈍いし、伝わったと思ったら卒倒するし、……さっさと告って”お前は俺のもの”ってわからせてやれば良いのよ、って……、あら? マークさん、もしかして未成年?」
- エミルファの問いにマークは、
- 「……知ってますよね? 俺がハーフエルフだ、って」
- と苦々しく溜息を吐いて、右手で髪をかき上げた。
Commentary
解説
- 「いつ君」その3、をお送りしました。
- ここでは、マリエールとエミルファ、2人の女魔術師について解説致します。
- エミルファは、その2の解説でも触れていますが、リプレイ「魔法使いのお使い」をプレイする当日に、レイシュウの代役として「急遽こしらえたキャラクター」でした。
- 一方のマリエールは、元々は私のPC(プレイヤーキャラクター)として、西部諸国で活躍させようと、ひそかに暖めていました。
- しかし、環境的にGM(ゲームマスター)か「西部諸国が冒険の舞台ではない」ことが多い、あと、1997年春に発売されたゲーム「マリーの○トリエ」と言うゲームの主人公「マル○ーネ」と思いっきりキャラクターが被ってしまい、出損なってしまった。と言う悲しい経緯が(滝涙)
- しかしまあ、マル○ーネ、もといマリエールはまあ”お子様”なのでしょうがないとして、問題はエミルファ。2年の歳月で、かなりアレな性格になってますね(汗)さすが、悪名高き(?)レイシュウの妻ですね(苦笑)