Esqlima's Novel 2-4
いつか、君だけのための歌を
その4
- 「おはよう、マリエール」
- 声を掛けられて、マリエールは飛び起きた。
- 辺りを見渡すとそこは良く知るラーダ神殿で、目の前には昨晩告白をしてきたマークが茶を啜っていた。
- マークの心は決まっていた。エミルファの言葉は胸に仕舞った。墓場まで持っていくことにした。もしマリエールに話したら、きっと卒倒だけでは済まない。
- ……それに、たとえもう一度告白して、振られたとしても、思いのたけをすべて告げることができたのだ、悔いはないだろう、と。
- マークは昨晩のことだけを掻い摘まんで話す。
- 「そうじゃなくて……! 貴方、今朝の船でロマールに帰るんじゃなかったの!?」
- やはり彼女は、凄い剣幕でまくし立てる。
- 「それは、まだ先で良いんだ、……それよりも」
- マークは茶の入ったカップを置き、向き直った。
- 「今から大事なことを話すから聞いて欲しい、答えは出せなくて良いから……」
- 真剣な眼差しを向けられて、
- 「は、はいっ!」
- マリエールも姿勢を正して、マークに向き直った。
- マークは緊張を隠すように1つ咳払いしてから、静かに話し出した。
- 「あの遺跡で出逢ってから、君から目が離せなかった。最初は危なっかしくて見ていられない、守ってやらなきゃ、って、そういうことだと思ってた。でも、君がレイシュウ殿と話しているのを見て、嫌な気分になった。助けに来たのが彼でなく……、いや、誰も助けに来なければ良かったのに……」
- そこまで言ってマークは深呼吸した。
- 「……照れくさいから今しか、1回しか言わない」
- 意を決して口を開く。
- 「君のことが好きだ、何もかも好き過ぎて、どうして良いかわからない、他の誰にも譲りたくない、君が離れるのも許さない、それに……」
- ひと呼吸置いて、マークは彼女の両手を手に取る。
- 「いつか、君だけのための歌を……」
- 誓いと同時に、手に取っていた彼女の両手を握り締めた。
- それは、あの遺跡での夜のこと。
- 「彼の作った歌を、一番最初に聞きに行く」
- と言う曖昧な、思わず聞き流してしまいそうな、マリエールの返事だった。
- まさか、こんなに深い、愛の告白に変わろうとは……、言ったマーク本人が一番驚いていた。
- 出逢いから、遺跡でのこと、全てを思い出したマリエールは、大粒の涙をいくつも零していた。
- 「駄目よ私は、……私なんて子供で、我侭で、馬鹿で、大雑把で、声大きいし、それに太ってるし……、良い所なんてちょっと魔法が使えるくらい、レイシュウ様みたいに頭良くないし、エミルファみたいに何でもは無理だし、それに貴方みたいに綺麗じゃない……」
- マリエールは涙も拭かず、しどろもどろになりながら、思いつく限りの短所を並べ立てる。
- 「さっき言っただろ……? 何もかも好きだ、って……」
- とマークは首を横に振るのだが、
- 「……ごめんなさい」
- と謝られ、一瞬振られたのかとマークは唖然とした。
- しかし、別の意味での謝罪だと、すぐに気付いた。
- 感極まったマリエールに抱き付かれたからだ。
- 「初めてで、どう受け止めて、答えれば良いかわからない……、でも、貴方は命の恩人で、大切な人……」
- 抱き付いたまま、マリエールは涙を零しながら笑う。
- 「大好きよマーク、貴方が私を嫌いになっても、絶対に離さないから覚悟してて、ね?」
- マリエールが全部を言い終わらないうちに、マークは背中に手を回して、抱き返す。
- 「ホントに待ってるから、貴方の歌、私だけのための歌を……」
- マリエールはマークの告白に答えを出していた。
- 「……愛してる」
- お互いに囁き、抱き締め合い、キスを繰り返す。思いを、誓いを、約束を、お互いに刻み込むように。
- 「……そうか」
- 不意に唇が離れて、マリエールが不安そうに見つめていると、
- 「俺達は両思いだったんだ、最初から……」
- 呟くマークの晴れやかな笑顔。
- 神殿のステンドグラスが七色の光を放って、2人を照らす。まるでラーダ神が、2人の前途を祝福しているようだった。
- 「ホントに良いの……?」
- マリエールが尋ねる。
- 「君はまた同じことを……」
- とマークが溜息を吐く。
- 2人は、かろうじて海、大陸への船が見える、オレリアン郊外の丘の上にいた。
- 「しばらく船には乗れない、今度は2人分、稼がないと……」
- と苦笑いのマークに、
- 「……もう遺跡はたくさんだけど、ね?」
- とマリエールは首を竦める。
- 2人は顔を見合わせて、笑い出した。
- 「そうだ、これ……」
- ベルトポーチから小さな箱を取り出して、マリエールに手渡す。
- 「開けて良いの?」
- 問いにマークが頷く。
- マリエールは箱を開けて、中身を指に取る。
- 「指輪……?」
- 目を輝かすマリエールに、
- 「……レイシュウ殿にお願いして、作ってもらったんだ」
- 少し跋が悪そうに俯くマーク。
- 指輪は、魔法の発動体だった。銀色に輝いていて、真ん中には小さな魔晶石がはめ込まれていた。
- 「俺の分まで作らなくて良いのに……」
- とマークは、苦々しく左手を見せた。その薬指にはマリエールのと同じ銀色の指輪。だが、こちらには魔晶石はなかった。
- 「これ……、エンチャント・ウェポンのコモンルーン(共通語魔法)の指輪……」
- マリエールに言われて、
- 「エンチャント・ウェポン……って、まさか!?」
- マークは愕然とした。
- 「……レイシュウ様、絶対最初から居たわね?! あのゴーレムとの戦いの時!」
- 2人はガックリと肩を落とした。
- 「俺、あの夫婦、嫌いとかじゃないけど、何か怖い……!」
- 恨めしそうに呟くマークに、
- 「ホント、何か、ごめんね……」
- マリエールはひたすら謝っていた。
- 「……それ貸して、マリエール」
- と声をかけられて、マリエールは指輪を一度返す。
- 「左手も……」
- とマークが左手を差し出す。マリエールも左手を重ねると、薬指に指輪をはめる。
- 「……私だけじゃ駄目よ、一度外して」
- とマリエールも右手を差し出す。
- 「良いって、俺は……」
- 頬を染めて両手を振るマークを、「駄目」とマリエールがかぶりを振った。
- 「わかった……」
- と自分で指輪を外して、マリエールに渡す。
- 彼がしたのと同じように、彼の左手の薬指に指輪をはめると、マリエールは満足そうに微笑んだ。
- 「ああ、結婚したんですね、あの2人……」
- 自宅にて、コーヒーを啜るレイシュウに、
- 「でも、告られて恥ずかしくなって卒倒するなんて、マリエールはホントに子供ですよ? 今からマークさんがちょっと可哀想です」
- とエミルファはコーヒーのおかわりを勧める。
- 「……良いじゃないですか、マーク殿、幸せそうなんでしょう?」
- 言いながら、カップを差し出すレイシュウに、
- 「何でも、新婚旅行はそれぞれの故郷……、ロマールとリファールって話ですよ、もう見てるこっちまで熱くてふやけそうです」
- エミルファは困った顔で笑いながら、カップを受け取りコーヒーを注ぐ。
- 「故郷ねえ……、貴女は確かタイデルでしたっけ? 帰りたいですか?」
- 腕を組み、悩むような仕草で問い掛けるレイシュウに、
- 「……騎士の記憶しかないので別に帰りたいとは、貴方は確かエレミアでしたよね?」
- とエミルファは淡々と答えを返す。
- 「良く覚えてますね……」
- とレイシュウは感心して頷く。
- 「実は私もね、エレミアには嫌な記憶が……、もしかしたら指名手配のビラが貼られているかもしれないので……」
- とエミルファに耳打ちする。
- 「……指名手配!?」
- それは初耳です! と言わんばかりに驚くエミルファに、
- 「私の両親が爆発事故に巻き込まれて死んだことは知ってますよね……? 第一の容疑者らしいんですよ、私が」
- と首を竦めるレイシュウ。
- 「ちょ、ちょっと待って! 貴方、それって……!?」
- と狼狽するエミルファに、
- 「……まあ、12年も昔の話なので、もう時効でしょうけど、ね?」
- と言い、レイシュウは眼鏡をクイッと指で上げて、肩を振るわせて笑う。1杯食わされたとわかり、エミルファは呆れ返る。
- 「……ホントにもう、だからマリエールに嫌がられるんですよ?」
Commentary
解説
- 「いつ君」その4、最終回は如何でしたでしょうか?
- 「一番好きなキャラクター、レイシュウでしょう?」と言う声が(笑)これが「ニ○動」なら、絶対このコメで画面埋まってますね(笑)あと、「書いてて恥ずかしくないのか?」とか「Esqlima、厨○乙!」とか……(苦笑)
- まあ、それはともかく、「いつ君」はこれにて終演とさせて頂きます。……何しろ、他にも沢山、書きたい話が出てきてしまって(苦笑)主役はマクラレン夫妻でも、ツィエン夫妻でもないとは思いますけどね。
- ……げ、今”SATO”が起きて来て、横でコーヒー注いでる……!(2017年1月11日、時刻は朝の4:52)
- お前も飲むか? ……って、そりゃ飲むけど……(焦)
- 見られて、じゃなくて……、読まれて、ないよね?(滝汗)