Esqlima's Novel 2-Ex
あなたにも歌を~I sing this song for you.
「いつか、君だけのための歌を」外伝
- 「何ですか? 騒々しい……」
- 自宅にて、コーヒーを片手に新聞を読んでいたレイシュウは、思わず眉間にしわを寄せた。
- 昼飯時、いつもならたおやかに帰宅してくる妻が、もの凄い勢いで迫ってきた。
- 恐らく数年ぶりに見る彼女の必死の形相に、
- 「何かあったのですか?」
- とコーヒーを置く。
- 彼女はコーヒーの置かれたテーブルを両手で勢い良く叩く。怒りは、彼に向けたものだった。コーヒーが今にも零れそうだ。
- 「どうして助けに行かないのですか!?」
- 凄い剣幕の妻・エミルファに、
- 「どうして助けに行かなければならないのですか?」
- いつもどおりに冷静な夫・レイシュウ。
- 「マリエールがあの遺跡に行ってから、もう4日、……何かあったとは思わないの?!」
- 「ろくに下調べもしないで行ってるのです、あの子の”自業自得”ですよ、……それに」
- ポンと1つ、妻の肩を叩く。
- 「あそこは、”シーフが1人でも”いれば勝ちも同然、他のメンバーの仕事は”配置されているモンスターの掃討”、……ある程度腕の立つシーフが1人で潜っても、何とかなるらしいんですよ?」
- 「……裏を返せば、マリエール達が全滅してる可能性も?」
- と言い夫を睨む妻に、
- 「そうですね……」
- と彼は読んでた新聞を畳んで、テーブルに置く。
- 「後で、様子を見に行くとしましょうかね?」
- と立ち上がる。
- 「貴方……!」
- エミルファは顔を上げた。
- 「……魔晶石、何個か見繕っておいてください、それと万が一のために、テレポート(瞬間移動)のコモン・ルーン(共通語魔法)を1つ、できたら後払いでお願いします」
- てきぱきと身支度をする夫を、あれやこれやと世話をして歩く妻。
- 「……彼女だけは連れ帰らないと」
- 小さく呟いて、彼は自宅を後にした。
- 盗賊ギルドの下調べと、魔術師ギルドの古文書に寄ると、遺跡は古代に作られた”盗賊の訓練施設”だと言うことはわかっていた。
- 妻・エミルファに説明したとおり、例えばある程度腕の立つシーフなら1人でも何とか攻略できる、”配置されているモンスター”も、ミノタウルスとのことで、ある程度パーティのメンバーが揃えば難しくない。
- ギルドに戻ってくる途中で、冒険者の店『虹色の野兎』亭にも顔を出した。
- マリエールは魔術師ギルドからの依頼として、遺跡の調査をここに貼り出した。
- と言うことは、冒険者の店……冒険者ギルドでも、遺跡に蔓延るモンスターの掃討として依頼を貼り出していてもおかしくない。
- 案の定、冒険者ギルド側の1つのパーティが遺跡に向かったと、店主であるウォルドさんから聞いたのだが、
- 「おいおい、また単独で乗り込むのか?」
- とウォルドさんに釘を刺された。
- 2年ほど前にも、師匠が待つ遺跡へ馬を走らせた、冒険者パーティと師匠を暗殺者の魔の手から守った、彼はそのことを言っていた。
- 「あの時みたいに命辛々戻ってくるのか? ……奥さん泣くんじゃないか?」
- 彼は心配そうに眉を顰めて、暖めたミルクを私の手元に置いた。
- 「その奥さんに尻叩かれて行くんですよ、その遺跡に……」
- 「ああ、そうなのか? それじゃ仕方ないな」
- と頬を掻いて苦笑いする。
- 「マリエール、出発する前に何か言ってませんでしたか?」
- と尋ねると、ウォルドさんは首を竦めた。
- 「あのお嬢さんか……、不機嫌そうだったな、分け前も折半だから仕方ないけどな」
- 「ああ、あと、彼女は見てないから知らないと思うが、冒険者ギルド側のパーティのリーダーが子供でな」
- 「えっ、子供……?」
- 「年は14、5歳くらいだな? 何でもアレクラスト大陸から流れてきた傭兵で、そのパーティも大陸から連れて来たとか……、いや、”冒険者マリエール”なら名前くらいは知ってるんじゃないか? ……ロマールの傭兵、”銀の髪のマーク”、マーク・マクラレン」
- 「私も聞いたことはありますが……、それ本人ですか? だって、パーティのリーダーでしょう? それに”二つ名”も、その若さではあり得ない」
- 「俺の見立てでは、あれはハーフエルフだと思う、耳を隠していたら、人間と見分けが付かないからな」
- 「珍しいですね、ハーフエルフで傭兵、ちょっと興味をそそられますね?」
- 「……どういう意味でだ?」
- 「言葉の通りです、多分、マリエールも同じ見解だと思いますよ」
- 自室にて、レイシュウは机に向かい銀色の何か……、シーフなら誰でも持っている”七つ道具”を玩びながら、エミルファの使いからの届け物、自宅で頼んでおいた”魔晶石”と””テレポートのコモン・ルーン”が届くのを待っていた。
- 乾いた空間に、ドアをノックする音が聞こえると、レイシュウは立ち上がり、ドアの前まで行き、静かに開ける。
- 「……」
- ドアの外の使いと頷き合うと、レイシュウは後ろ手にドアを閉め、反対の手で指を鳴らし、短く何かを呟く。
- 古代語魔法ハード・ロックだった。
- ここは仮にも盗賊ギルド、構成員に鍵を開けられないように、魔法の鍵をかけたのだ。
- 「さて……、行きましょうかね?」
- ハード・ロックで精神点を使ったレイシュウは、溜息を吐いて額の汗を拭う。
- 部屋の中央に歩み寄り、今度は別の魔法の詠唱を始める。
- 呼応するかのようにベルトポーチの中の魔晶石の1つが、強烈な光を放った。
- 「おかえりなさい」
- レイシュウが声をかけると、右隣の銀髪の青年が恐る恐る目を開く。
- その目に飛び込んできたのは、溢れんばかりのオレンジ色。夕日が辺りを照らしていたのだ。
- 3人は、オレリアンを護る城壁から徒歩で15分ほどの、小高い丘に降り立っていた。
- 「いつ見ても綺麗ね……」
- 左隣のマリエールはさっさと離れ、遠くに見える城下町を見下ろしていた。
- 「さすがに、城下内に飛ぶのは、拙いですからね……、お疲れの所申し訳ないのですが、ここからは徒歩で帰らないと……」
- と説明すると、その場に座り込んでしまう。
- 「レイシュウ殿!?」
- 「ちょっと、レイシュウ様!?」
- 驚いて振り返る2人に、
- 「……久しぶりです、ここまで魔法を使ったのは」
- 力なく笑うとベルトポーチの中の魔晶石を全部取り出す。4個すべてが真っ黒い、ただの石に変わっていた。
- 「……また無茶して! ってエミルファに怒られるわよ」
- とマリエールもしゃがみ込み、彼に視線を合わせる。
- 「あはは……、できたら彼女には内緒でお願いしますよ」
- 苦笑いのレイシュウに、
- 「……いらなければ良いけど、歌おうか?」
- とマークも心配そうに覗き込んできた。
- 「聞いてレイシュウ様、彼バードなのよ、疲れた精神も回復できる、って」
- と胸を張るマリエールにレイシュウは苦笑い。
- 「貴女が胸を張ることじゃないでしょう? ……マーク殿、お願いできますか?」
- と頭を下げると、マークは頷いて背負い袋から竪琴を取り出した。
- 「……歩いて帰れるくらいで大丈夫ですよ、ただ、帰るのは夜ですね」
End
Commentary
解説
- 「いつ君」の外伝、レイシュウ(エミルファ)視点ですね。
- やっぱり「一番好きなキャラクター、レイシュウでしょう?」と言われそうですね(笑)その辺は”外伝”なので大目に見て欲しい(以下略)
- あと、冒険者の店『虹色の野兎』亭の店主ウォルドさん、彼は”年齢しか変化がない”ので、”キャラクターシートは据え置き”のままです、ご了承ください。
- それと……、「いつ君」その2とこのエピソードで、”レイシュウがマークとマリエールの腕を掴んでテレポートの魔法でオレリアン近郊に帰る”、これって絵的には凄く良いんだけど「古代語魔法は両手が空いてないと使えないので、絶対に無理」なんですよね?(汗)
- なので「行きは”古代語魔法のテレポート”、精神点補填で魔晶石1個、帰りはテレポートの”コモン・ルーン(共通語魔法)”を3人分に拡大するのに魔晶石3個」でどうでしょう!?
- コモン・ルーン(共通語魔法)は確か呪文を唱えるだけでOK、某バブ○ーズ・リプレイでパラサ(グラスランナー)がカウンター・マジックのコモン・ルーンを多用してたし。
- 問題は”テレポート”のコモン・ルーンがルール上あるのか? コモン・ルーンは魔晶石で拡大OKなのか? あと、お値段はいかほど?? かな(汗)
- あんまりネタバレしたくないのですが、リプレイ「魔法使いのお使い」、小説「賢者の復讐」はこのシリーズのホントに一番最初、今までのが全部「起承転結」の”起”の部分だったりします。
- 大風呂敷広げて逃げないための楔を自分自身に打ち込みました。もう逃げれない、ちゃんと最後まで書きます。
- ただ、SATOほど、大急ぎでは書けないので、ゆっくり見守ってね♪ くらいでお願い致します。