Sato's Novel 1-4
老公の翼
第4話
- 『私は、ここに宣言します。必ずやこの宿場町オートルに光りを導くことを……、今や我々は、このオートルの遺跡の謎を解き、岩のように固く閉ざされた扉を解き放ちました。そして今また、光の通わぬ地下迷宮に人に仇なす悪しきドラゴンを倒そうと出立いたします。我らを、親愛なるオートルの町の人々にこの様な壮行会を開いて頂いた事を深く感謝いたします。その感謝の貢ぎ物はドラゴンの首を持って叶える事をここに誓いましょう、そして我々がこれより得る『称号』により、この町はアウグステやオランより、完全に解き放たれるのです。ファーランドの歴史の中心となるのです。この喜びを我が神に感謝いたします』
- オートルの中央広場に人を集めて、サムダム・ルバがその小さな丸い身体を震わし、大きな声を張り上げていた。
- 声は満場の拍手で満ち、その歓声に彼は人の良い笑顔で手を振って答える。
- 何とも微笑ましい風景じゃ……、無論、それ、送り出される相手がサムダム・ルバでなければの話だがな……。
- ワシは背に担いだ籠を持ち直し、アム殿の店『飼い慣らさせれない羊亭』へと急いだ。無論、フォレスト殿も一緒じゃ。
- 「じーさん、早くしようぜ、奴らに先を越されちまう」
- そう言ってさっきから落ちつきなくワシを急かしてくる。
- ワシは壇上に立つ、先ほど事を構えた3人の冒険者を後目に店へと入っていった。
- 「あら、早かったのね」
- 開店の準備をしながら、アム殿がワシらに声を掛ける。
- 「うむむ、ちょっと重かったぞ」
- ワシの愚痴に、ジョッキ一杯の血ビールが差し出された。
- ググーッと、一気にやる。生き返る様じゃ……。
- 実はあの後、サムダムは自作自演の壮行会の準備の為だろうか、ワシらと交戦することなく退散し、オートルの町へと降りていった。
- 無論、あのファイター、シーフ、魔術師の3人もな。
- そして取り残された我々は気絶する駆け出しの冒険者3人を担いで山道を降りて行ったんじゃ。店に帰って、彼らをベッドに寝かして、アム殿に頼まれて再びフォレスト殿と彼らが集めた蜂蜜茎を取りに行ってきた訳じゃ。
- その帰りにあの馬鹿馬鹿しくも錚々しい壮行会に出くわした訳じゃ。自作自演と言うのはフォレスト殿に聞いた話で、並んでいる奴らから式を行っている奴らまで、町の西側の住宅街と商店街の住人だそうじゃ、何でも資本はあのサムダム・ルバが出しているらしいと言うから呆れたもんじゃな。
- 「あの子達はまだ目が覚めぬのか? アム殿」
- アム殿は首を横に振って、それでも嬉しそうに、
- 「安らかな寝息を立ててるわ、今は寝てるだけ、直に起きると思うわ」
- そうか、それなら安心じゃ……。
- ひと安心して、ワシは装備を一式確認する、松明はあるし、固形非常食も大丈夫じゃ……。
- アム殿はそんなワシを見て、
- 「ちょっと、ギャグレイさん、まさか遺跡に行くつもり?」
- 「ああ、そのつもりじゃ、のう、フォレスト殿」
- 「ああ、早く行こうぜ」
- あのサムダム・ルバが行くのだ、こうしてはおれん……。
- それにフォレスト殿と一緒に行こうという算段はもう付いていたんじゃ。
- 勿論、ワシとフォレスト殿の目的は違うがの……。
- 「大丈夫? 貴方たち寝ていないのに」
- 気に掛ける様に、アム殿はワシとフォレスト殿を見た。
- 『すぐに取って来て』と言ったのはアム殿の筈じゃったが……、ちっと勝手な言い草じゃな……。
- そんなワシの気配を感じたか、
- 「ごめん、営業掛かってるから……」
- と悪びれる風もなく言った。
- まあ、あの時、サムダム・ルバに啖呵を切ったアム殿の頼み、それに、あの駆け出しの少年少女の力になってやりたいと、そう思ったのは何を隠そう、ワシ自身じゃった。
- 「1日2日眠れ無くとも平気じゃよ、アム殿」
- 「……わかったわ、あの地下遺跡、大したモンスターは出ないけど、トラップが結構多いみたいだから気を付けてね、フォレストもね」
- ワシはちっと驚いた。まるであらかじめ遺跡を見てきたような言い方じゃった。いや、それよりも、ワシもまたあの駆け出しの少年少女の様に、アム殿に心配される対象となったことがちぃいとくすぐったかった様な、嬉しいような気がしたんじゃ。
- だが、すぐにワシは笑ったよ。
- 「大丈夫、少し様子を見に行くだけじゃ、すぐに戻るよ、のうフォレスト殿」
- その言葉を言い残し、アム殿を安心させワシとフォレスト殿は再三あの遺跡へと向かった。
- 急いでいると言っても準備には余念がないワシじゃ、『戦いの前に戦いあり』が持論じゃ。あれこれ不足している物を大型雑貨店『ルーシー』で買い(振りの良いショートソードが欲しかったんじゃ、やはり迷宮では短い武器じゃよ)店を出ると、すっかりサムダム・ルバの壮行会は終わっていて、町はいつもの静けさを取り戻していた。
- いや、よく見ると、町はいつもにもまして人気が無い。その理由は、すっかり歩き慣れた遺跡への道で知ることになった。
- それは、ワシらと一緒に歩く冒険者となって教えてくれた。
- もう、どこから沸いて出たのか、遺跡の道は人・人・人に埋め尽くされておった。
- 遺跡に至ってはまるで祭りのごとき賑わいに沸いておった。
- 「すげー人だな、こりゃ……」
- フォレスト殿の言い分もわかる。
- それだけ人々が、野次馬から冒険者まで、中にはその土中から露出した遺跡の入り口に祈りを捧げている僧侶の団体もいた。
- よく見れば、露店やワゴンの弁当売りまでうろうろしておる。
- ワシらが到着した頃には既にサムダムは迷宮に入っておった。あれこれ買いもで悩んでいたのが悪かったの……、まあ、タッチの差じゃろ、すぐに追いついて見せる。
- そう意気込み、人をかき分けワシは迷宮に入って行ったんじゃ。
- 中に入ってまず、その広さに驚いた。
- 入り口は大きかったが、それでも地上にチョコンと口を出している扉じゃったろ、それが長く広い階段を50段くらい降りて出現したのは、このオートルの中央広場だったら2つは入りそうな幅に、見上げても石の天井の目がほくち箱くらいに見えそうな高さ、これならこの迷宮にドラゴンが住んでいると言う噂も信憑性が増すという物じゃ、もっともそんな緊張感も冒険者や調査団にごった返して町さながらの賑わいを見せては薄れるという物じゃな。
- しかも、迷宮と言うには、割と単純な作りだった。まず進むと分岐が現われ、一方が、そのまま進むと行き止まり。分岐を行くと、大回りと直線の分岐、まあどっちを行っても同じ道に巡り会うと行った寸法じゃ。もっともフォレスト殿は迷うことなく、『こっちだじいさん』と行った具合にすいすいと進んでゆく。ワシとしても大助かりじゃわい。
- 「多分、この道が奥へと続いているぜ」
- とフォレスト殿の力強い言葉に幾らか進んで、人混みの中歩いていた。
- 急にフォレスト殿が立ち止まった。
- 「どうした、フォレスト殿」
- すると、フォレストは、人差し指を唇に付け、
- 「風だ……」
- そう小さく呟いた。
- そして暗く何処までも続く迷宮の先ではなく、まして入り口の方向でもなく、すぐ横の石造りの壁を見つめている。
- 見れば紙一枚の隙間もなく並べらた石のひしめく壁である。少なくともワシには感じられなかった。この迷宮に満ちる冒険者は誰1人としてその事実に気が付く物はいないようじゃ、みんな素通りしている。
- 「少なくとも、この壁の向こうに隠された空間がある……。入り口はここじゃないようだがな。さ、じーさん先を急ごうぜ」
- そう言って再びフォレスト殿は歩き始めた。 作為的に隠された空間がある。そうフォレスト殿は言ったのだ。
- そして、なだらかに見える人の流れに停滞が起り始めた。
- この迷宮に入って、時間にして半時、終点にしては早すぎる……。そう思った。
- ワシらが歩いている場所よりいくらか広い場所に出ると、既に到着していた冒険者達が、この迷宮の地上の入り口にあった『扉』と全く同じ姿をした石戸の前で途方に暮れていたんじゃ。
- つまり、ここが今の時点でのこの迷宮の終点と言う訳じゃな。
- しかし、彼らは明らかに、表現しようのない憤りを感じているようじゃった。ワシらが到着するや否や、ひげ面の鎧姿の男が、
- 「もう駄目さ、入り口が閉められちまった」と言って溜息を吐く。
- 「開かないのか?」
- フォレスト殿は訊ねる。
- 「サムダムの野郎、中から『ロック』の呪文を掛けやがったのさ」
- その隣にいたローブを纏った中年の女が言った。
- またしてもサムダムか……。
- ワシは、怒りに任せて扉に力一杯体当たりして押してみた。
- 「おのれ! サムダム!」
- 駄目じゃびくともしない。
- ワシの身体の方が壊れそうじゃ。
- じゃが、そこでふと考えた。魔法のロックであれば、この扉に呪文の効果があるわけだから、外からでもアン・ロックで解呪出来るのでは……。
- 「誰か、魔術師の技能を持つ者はいないのか?」
- ワシの問いかけに、そこにいた50人はいそうな冒険者から沈黙の解答が戻ってきた。そして先ほどの中年女性が、
- 「ここに8人魔術師がいるんだけど、誰1人解呪できなかったよ、4倍がけで試して見たんだけどね」
- フォレスト殿は溜息を一つ付いて、
- 「駄目だじいさん、戻ろうぜ」
- そう言って、あっさりと機微を返した。
- そうじゃな、これ以上進めないからには、ここにいても仕方ない、そう思った。
- 一度、出直そう、そう思ってフォレスト殿と引き返した。
- まあ帰って、アム殿に相談してみるか……、
- そんな事を考えながら、あの開かずの扉の前の雑踏が随分と遠ざかって行った頃、急にフォレスト殿が立ち止まった。
- そして、ワシの方を見て、
- 「じいさん、ちっと危険だが、下に降り方法あるぜ、行って見るかい? もっとも生きて帰れる保証はないぜ、脅しじゃなくてな」
- そう言って笑った。
- 無論、ワシにはその申し出を断る理由はなかった。
- フォレスト殿が石の壁を調べ始める。
- そして、人のいないのを見計らって、どういう仕組みなのか、一角の石を押すと、なんと、今まで壁だった場所に、調度人1人通れる位の人通口が出現したのじゃ。
- 思わず息をのんでしまったよ。
- フォレスト殿は迷いなくその穴へと入って行った。
- そしてその穴から顔を出し、
- 「どうした? 早くしないと閉めちまうぜ」
- そんなとき、入り口の方から、少女の様な悲鳴が聞こえた。やはりモンスターはいるようじゃな、いや、今また聞こえた声は少年のものだったかもしれない……。
- 果たしてこの先に何があるのか……。
- まあ、考えて仕方がないじゃろ。
- ワシは覚悟を決めてフォレスト殿の後を追った。
- 待っていろサムダム!
- ワシが入ると同時に、ゆっくりとその人通口が閉まって行った。
- まるでその石の音は、ワシの心の中から響いているような乾いた音が、何時までも耳に残った。
- 仕方がない、帰ったら血ビールでも飲んでぐっすり寝よう……。そんな事を考える事自体、正直、ちょっぴりビビッていたのかもしれん。
- ともかく、サムダムには会いたいが、ドラゴンだけは勘弁して欲しい気持ちでいっぱいじゃった。
Commentary
解説
- ういっス! SATOです。
- 老公の翼第4話、どうだったでしょうか。
- もう4回目だと言うのに、まだキャンペーンシナリオのほんのさわり程度です。本当に完結するんだろうか……、一抹の不安を感じている今日この頃です。
- 皆さん、応援してやってくださいね、温かい目でよろしくお願いいたします。