Kuu Takahijiri's Novel 3
アーリンの日記
その3
- ○月×日
- アウグステに着いた。
- 取敢えず宿屋に泊まった。
- 静かな場所、クリスがマイリーの信者だからマイリー神殿に運びたかったが各ギルドも神殿もオランの出向所、オランから逃げてきた私達は手配されている可能性があったし、まだアウグステがどんな状況かわからなかった。用心するにこした事はなかった。エマの顔は知られていないお陰で、無事宿屋に泊まれた。
- エマに引き続きヒーラーをしてもらい、ファナも残ってもらった。
- ロッツ「エマはファナを守る事を前提に来たのだから、支障は無いだろう」
- 不安は残るが、ファナを害するつもりなら、ヤる機会は幾らでも有った。ここは信用する事にした。
- まずは万能薬について3人で情報収集。オラン混乱している所為なのか、アウグステにまだ指名手配はまわってないみたいだった。3件の酒場と各ギルド(魔術師ギルド、シーフギルド、マーチャントギルド)、各神殿(ファリス、ラーダ、チャザ、マイリー)で情報収集した。
- 情報をまとめると、万能薬自体は、何か植物の茎らしい事と不味いほど効果があるらしい事。調合の必要なくそのまま食べられ、少量でもいろいろな効果が有るらしい事。万能薬の事を『かう』という言葉が付く酒場で聞いた事があるらしい事。オートルにあるらしい事。
- これらから考えて、オートルにある『飼い慣らされない羊亭』に行く事にした。
- 一旦宿に戻り、エマにクリスとファナを頼んで、オートルへ向かった。
- ○月×日
- オートルの飼い慣らされない羊亭へ行った。女将に万能薬が無いか聞いてみた。万能薬を知らないみたいなので、こういう感じの物です、と万能薬について説明すると、「蜂蜜茎の事ではないかしら」だが、「今ここには無い、取りに行かなければ無い」と言われた。ここから1時間程登った所の高原に群生しているそうで、帰りは30分程だそうだ。
- 籠を人数分貸してもらう代りに、薬にならない甘い蜂蜜茎をあげる事にした。不味い茎が1本あればクリスは助かる、あと、私達には不要な蜂蜜茎はアムさんにお礼にあげてそれでも余ったら売ろう、という事で、アムさんの案内で高原へ向かった。
- 蜂蜜茎。
- 見た目どれも同じ。舐めて判断するしかないかー、と言う事で、3人で手当たり次第、折っちゃ舐め、折っちゃ舐め、を繰り返した。面倒だけどそれ以外方法が無いから仕方なかった。
- ほんのり甘いのや、苦いの、死ぬ程苦いのばっかり取れる。
- 頭がクラクラしてきた。
- 見付からなさすぎ。いい加減虚しくなってきた頃、アムさんが見るに見かねて、大まかなコツを教えてくれた。
- 気を取り直して再挑戦しようとする前に、ロッツが蜂蜜茎の苦くて真っ白になるのを見つけた。
- 精根尽き果てる前に見つかって良かった。
- 他の採れた蜂蜜茎、薬にならないからアムさんにあげて、他の食材にならないのは持っていても仕方が無いから捨てていく事にした。
- ロッツ「肥料にはなるだろ。取敢えずさっさとこれクリスに持って帰ろう」
- 籠を返すのに店に戻ったところ、アムさん「ちょっと待っていてね。3代目に渡してくるから」
- アムさんも何処かに行くみたいで、途中まで一緒に行動することになった。
- ○月×日
- アウグステのクリス達の所へ戻った。
- シルビス「見つけてきたー!」ドン!
- ……焦る気は解るけどドア壊れるよ、クリス安静にしなきゃいけないから普通に開けよう、……と思ったけど、口出すのは止めた。
- ロッツがエマに「そのまま食べさせてくれ」と言う前に、シルビス「大丈夫? クリス」とチクチク、違った、ネチネチ、もとい、えっと、何度かクリスに声を掛けていた。けど、体に触れても、反応がほとんど無かった。
- エマに渡して、クリスに食べさせると言うか飲ませるというか、とにかく、摂取させた。意識がほとんど無くて最初は無理だったので、細かくして水と一緒に呑み込ませ、後、食べさせた。
- 何とかクリス回復した。
- しかし私達は舐めただけだったけど、クリス咀嚼したから10日間程味覚音痴になった。体調戻っただけ良いんだけど、食事時、味がしないらしく変な顔してたなー。体力戻す為にも食べなきゃいけないって解っていたみたいで、食べていたけど。クリスの体調戻るまでの間それぞれ必要と思われる物とかを買い揃えたりした。クリスが治ってほっと一息って感じだった。
- 皆揃った時、船医が「アウグステ七世の死はオラン熱だったと伝わっている」と言い出した。
- シルビス「今回クリスがオラン熱にかかったのと同じ様に、故意的なんじゃない? 病死ではなく、暗殺・抹殺の可能性があるよね」などと話している時、突然、襲撃された。
- 暗殺者。
- 船医が大きな手傷を負った。恐らく知られてしまった事に対して口封じの為みたいだった。
- 暗殺者は全員戦士で5人。4人がレベル4。1人はレベル9だった。
- げー!! レベル的に無理があるー! と焦っていたら、
- ロッツ「頭、知恵でぶっ潰すしか無いか。レベル9の戦士じゃ俺らが束になっても勝ち目は無いだろ」
- 戦う、逃げる、どうする? と聞くと、
- クリス「戦うしかないだろ」
- ロッツ「身に掛った火の粉は払わなきゃならないでしょ」
- オラン熱にかかったクリスは「手前ふざけんなよ」と八つ当たり気味だった。
- 気分的にむかついているのは同じだけど、勝てるかなー、ま、やるしかないか、と思った。
- ロッツ「レベル4の奴らは1人ずつやれば俺達で対処出来る。けどレベル9の奴どうやる? どうする?」
- クリス「ファナも守らなければ」
- シルビス「ファナはエマに守ってもらおうか」
- ロッツ「エマ戦力になるのか?」
- エマはプリーストだったよね。ドラゴンプリースト。
- ロッツ「暗殺者が狙っているのは俺達全員だ。ファナ達は後方に下がってもらおう」
- クリス「エンチャントウェポン掛けてくれ」
- その間に、アムさんはレベル9の奴と一騎打ちになって他の部屋へ行った。
- エマ「全員耳をふさいで!」とドラゴンロアを使って、1人に完全に効果が出て錯乱。残り3人。
- クリスが切り掛かって、1人半死半生。
- 1人にスリープを掛けた。成功。残り1人。
- ロッツ、半死半生の奴に止めを刺そうとしたけど、まだ足りなかった。シルビス、クリスにエンチャントウェポンを掛けた。
- エマ「私の後ろに下がってください!」エマがファイアーブレスを使った。
- 全員即死。
- ロッツぼそっと「黒焦げっていうか、かすも無いくらいだな……」
- ほんと。エマってば、レベル高……、と思った。
- 取敢えずここに居た暗殺者4人は片し終わった。
- クリス「アムさんはどうしてるんだ?」と言ってる最中にアムさんが戻って来た。
- クリス「どうですか、無事ですか? 大丈夫ですか?」
- アムさん「なんとかなったよ。何か凄い事になっているみたいね」
- クリス「こんな効果ある魔法あるんなら、最初からそれやってくれよ」
- シルビスも「そうね。無駄にエンチャントウェポンかけたわ」
- 私もそう思った。
- が、エマはドラゴンプリースト。一応神官。人は殺したくなかったそうだ。状況が状況だったからで、本来ならやらない事みたいだった。ファナを守りたいし、ファナを守ってくれた人も守りたかったからだそうだ。
- ロッツ「しかし、全員死んじまったから、情報も何も聞き出せないな」
- シルビス「それでも一応、死体調べようか」
- アムさん「じゃ、私これから友達呼びに行かなきゃ行けないから」と別れの挨拶。
- ロッツ「何処まで?」
- 取敢えずは、オランに行くそうだ。アムさん「大陸の方渡って行くから」
- ここまで一緒に来たのはアウグステ経由で大陸に渡る為みたいだった。
- アムさん「じゃあね」と出て行った。
- アムさんが行ってから気付いたんだけど、隣の部屋で即死している奴が1人居た。レベル9の奴だったと思うんだけど……、アムさんも強かったのね……。センスオーラしてみたところ、氷の高位精霊の形跡があった。フリーズかな。
- 他の4人は黒焦げなので、その氷死体を調べてみた。
- 猫の形をしたブレスレットをしていた。
- シルビス「可愛らしい物つけてるわねぇ」
- クリス「似合わねえ」
- 何処かで見た事あったっけ?
- ロッツが詳しく検めたところ、鉄製薄型のブレスレットで、金銭的価値はかなり低い。仲間の認識用に付けている可能性があるそうだ。
- 宿の人に聞いてみた所、アウグステの傭兵ギルドの会員証みたいな物だそうだ。オランどうこうより、ただ単に荒っぽい仕事を引き受ける、今の治安の悪さが要に成っているような傭兵ギルドだそうだ。
- クリス「って事は、アウグステの街の傭兵ギルドは完全に敵って事か」
- ロッツ「レベル9って事は、傭兵ギルド内でも幹部クラスだろうな」
- シルビス「でも何で襲ってきたのかしら」
- ロッツ「雇われたからだろ。幹部クラスの奴を差し向けてでもファナを殺さなきゃならない理由があるんだろ。傭兵ギルドを雇った奴かコイツ等に。多分前者だろうけどな」
- 現状では、何処に居てもアウグステに居る限り、安心は出来ないという事か。
- ロッツ「船医も傷を負っているから直してくれ。取敢えず移動しようか」
- クリス「彼は命を狙われるだろうしな」
- ロッツ「彼だけじゃなく俺達もだけどな」
- クリス「俺達もだけど、彼は身を守る術が無いから。一緒に行動して、安全と思われる場所に向かおう」
- って事で、船医さんをヒーリングした。こういう時って、シャーマン便利。傷だけなら完治させるから。
- ロッツ「オートルか」
- クリス「オートルしかないか。オランも行けないしな」
- ロッツ「アウグステも駄目だしな」
- けど、どうやらオートルのギルド、アウグステのギルドと繋がっているそうだ。という事は各ギルド、オランとも繋がっているだろう。情報は伝わっているだろうから、オートルにも行くのも危ないのか。って事は、
- ロッツ「何処に行っても狙われるって事か」
- クリス「未開の地にでも行かなきゃ行けないって事か?」
- シルビス「ここ(ファーランド)の未開の地?」
- そうだよね、未開の地ってここよね。ここ以外で未開の地なんて在ったっけ……、思いつかない。それに、ここ(ファーランド)の未開の地なんて、何処だか解らない。こんな事ならファーランドの地図手に入れておけば良かったと思った。
- 皆考えに行き詰まった時、
- エマ「私の出身の村に身を隠してはどうでしょうか」
- ロッツ「そうするしかないか」
- クリス「それは何処なんだ?」
- エマ「オートルの遺跡を抜けた先にあります」
- シルビス「あれ? 確かリザートマンだっけ?」
- エマ「その先です」
- 蜂蜜茎を採った更に奥みたい。そこへ行く事にした。
- 全員変装しつつ、身を隠しながら、エマの言う村へ向かった。
- 村へ着いた。
- エマ「ようこそ、ここが隠者の里『ルバ』です、人口17人、ちなみに修行者の場所です」
- エマにこの里の事を説明してもらった。暗黒神官はともかくとして、本来であれば社会にあまり適応出来ない、認められない技能を持つ為の修行者の場所、魔法を修行する者にとっては最終形態の場所だそうだ。この里自体は出来てまだそんなに経ってない。創始者は「暁の魔術師」と言われるミス・マギー。30年程前に造られた、というか、修験者の場所として元々在ったが、里としての機能を持たせたのが暁の魔術師だそうだ。
- 里の人を見ていた所、何処かで見た事ある顔が……あれ?? と思った。
- クリス「あれ? アムさんじゃん?」
- 修験者の格好をしたアムさんが居た。
- クリス「なんで貴方がここに居るんだ? オランへ向かったんじゃ」
- アムさん「私は18年間この里を出た事はありません」
- ……え?
- ロッツ「本当に?」
- アムさん「本当です」
- 他の人もそうだと言う。って事はさっきまで一緒に居たアムさんは、違う人? 高レベルの魔術師で、姿変えてたって事?
- ロッツ「じゃあさっきのアムさんって実は一体誰だったんだ……」
- クリス「……後で解るだろ」
- ロッツ「取敢えず色々聞いてみるか」と、里で一番年寄りっぽい人に声を掛けた「この村を作った人って、どういう人?」
- 老人「この村を作った奴か? ワシの昔の知り合いじゃよ。」
- ロッツぼそっと「この人一体誰なんだ」
- 老人「ワシも3年程前ふらりと遊びに来ただけじゃ」
- ………………全員同じ事思ったみたいだった。
- ロッツ「貴方は一体誰ですか?」
- 老人「トイ・ホイ・クワと言う者じゃ」
- いや、本当に生きているとは思わなかった。死んでいてもおかしくなかったから。聞いてみた所、現148歳だそうだ。
- ロッツぼそっと「年寄りの方が情報知ってるだろうとは思ったが、まさかここで会うとはな」
- クリス「すいません、杖の事……」と謝ろうとする前に、トイ・ホイ・クワ「おぉ、杖はファナに渡ったか?」
- 杖はファナが持っているけど、とファナの方へ皆視線を向けた時、トイ・ホイ・クワ「おぉ、大きくなったのー」
- …………じいさん、ファナの事知っているのか?? と思った。
- ロッツ「ファナと知り合いなのか?」
- クリス「彼女の事を教えてください」
- 他にも知りたい事がいっぱいあった。皆口々に質問し出した。盲目の賢者アウグステ。ファナの事。
- トイ・ホイ・クワ曰く、ファーランドの事の起こり、アウグステの事の起こりを調べていた時、何故この土地にドラゴンが居たのか、どうして強い魔物の巣窟になったのかというのが、全て1つの書物にまとまっている。
- それが『カストゥールの奇跡』。過去の因縁を知る事。『カストゥールの奇跡』に『千年の野望』『一夜の夢』という魔法があるそうだ。その鍵を握るのがファナだそうだ。アウグステの真の姿。今私達がアウグステと呼んでいる街は盲目の賢者が開祖したアウグステではないそうだ。
- ロッツ「故意に作られたのか? 仮に作られたのか? 本当に作られたアウグステは何処かにあるのか?」
- トイ・ホイ・クワ「アウグステの三世以降は、実は血縁じゃないのじゃよ」
- ロッツ「クーデターが起きて別の街にアウグステを移したって事も考えられるんだな」
- クリス「初代、一世が開祖したアウグステは、何処の事なんだ?」
- トイ・ホイ・クワ「それが『千年の野望』『一夜の夢』という魔法の存在じゃよ」
- クリス「多分、関係しているのは、あの排水溝だよな」
- 滅茶古い石で出来た所、在ったもんね。
- シルビス「え、千年毎に一晩だけ現れるって事?」
- 不便そう。隠れなきゃいけない理由でもあったのかな?? と思った。
- しかし。
- ……よく、訳が解らなかった。
- トイ・ホイ・クワって言っている事、抽象的過ぎ。
- 現148歳だし、時々違う事に話が飛ぶし。
- ボケてはいないと思いたいけど、脳みそ腐りかけてるんじゃないだろうな? とちょっと思った。
- これ以上アウグステの成り立ち、因縁について突っ込んで聞いても埒があかないので、別の事を聞いてみる事にした。
- ロッツ「この里を開祖したミス・マギーは、今は?」
- トイ・ホイ・クワ「今、大陸の方に渡っておる、ここにはおらん」
- ミス・マギーがトイ・ホイ・クワにとっての最後の高弟だそうだ。彼女は本来であれば封印されている魔法の一部も使えるそうだ。メテオストライク以上の破壊魔法とかも2人で開発していたそうだ。
- …………敵に回したくない、と思った。
- クリス「オランで突然振って沸いたメテオストライクは貴方ですか?」
- トイ・ホイ・クワ「ワシは3年間ここから出た事は無いぞ」
- シルビス「じゃあ一体誰だったんだろ」
- ロッツ「別な人が変身してか?」
- トイ・ホイ・クワ「違う、君達はずっとレベル10の魔法使いを連れているんだよ」
- ちょっと待って、それって……、と思った。
- ロッツ「え゛っ」
- シルビス「ファナ?」
- トイ・ホイ・クワ「そうじゃ」
- シルビス「ファナ自身が!?」
- クリス「うそ」
- ロッツ「おいおい、ファナー」
- 正確に言うと、ファナ自身がレベル10相当の魔法使いで、ファナの人種から見れば、あまりレベルが高いという訳ではないそうだ。
- ロッツ「じゃあ、ファナは人間外?」
- トイ・ホイ・クワ曰く、ソーサラーの魔法は古代カストゥール帝国のほんの片鱗に過ぎない。今、レベル10でマスタークラスと言われている。トイ・ホイ・クワは、カストゥール時代の魔法を全部蘇らせたいのだそうだ。
- ロッツ「トイ・ホイ・クワにとって、ファナは最高のその可能性のある鍵?」
- シルビス「まさか古代王国の血を引いている?」
- ロッツ「滅びた筈の者達の血を引いている?」
- クリス「どういう事だ? 何でそんな人が生きているんだ?」
- ロッツ「普通は生きてない」
- トイ・ホイ・クワ「盲目の賢者アウグステこそ、古代カストゥール帝国の生き残りなんじゃ」
- ロッツ「その子孫って事か?」
- 確かに、アウグステの事の起こりは古代カストゥールの滅びた歴史と重なる。500年程前。
- クリス「それでも、何で生きているんだ?3代目からは血筋じゃ無いんだろ?」
- アウグステ、オランの介入は四世の代からだそうだ。
- それから遡っても街の歴史は150年から200年の間。空白の300年間。
- 後で聞いた所、アウグステ一世は300年間、ノーライフキングとなって命を長らえさせた。ノーライフキングに彼ら古代人は任意でなる事が出来そうだ。
- ノーライフキングに身をやつして生き長らえ、凍結させた1つの命が彼女、ファナ。ファナは生っ粋の古代人。
- ノーライフキングは子孫を残せない。盲目の賢者アウグステが開祖したアウグステはノーライフキングの街。
- そしてあの伝承の『静かなる浅海』。ノーライフキングの街は滅びた。
- それが空白の300年間だそうだ。アレクラスト大陸の中に有ってファーランドは全く違う特殊な時間を過ごしていたのだろう。
- 今まで、否定されてきた事や否定されても続けたかった事など全てが集まってしまっていた、それでいながらオラン等の新たな介入によって活性化した。
- アウグステ一世が人に会えなかったのはノーライフキングだったからだそうだ。ノーライフキングは子孫残せないので、実際は二世から血筋じゃ無いかもしれない。ただ、四世の代まで一世はノーライフキングとして生き延びていたそうだ。
- オランはその事実を知り兵を投入するのを止めた。アウグステに手を出すべきではないと判断したのだろう。私達がそれまで見てきたアウグステは、1世が開祖したアウグステとは違うもう一つのアウグステという事だ。オートルも。
- トイ・ホイ・クワはその事実を知りつつも、別に公表する必要も無い、ただ自分が知りたくて調べただけ、オートルの事の起こり等をずっと研究していただけで、知っていても介入していなかった。
- ファナは古代カストゥールへの可能性の鍵では有るけれど、ファナに対しては自身の生きたい様に生きれば良いと思っていたそうだ。
- 話している間に里に怪我人が1人運び込まれた。
- 見に行った所、シルビアだった。半死半生で担ぎ込まれた。今さっき負った傷みたいだった。誰に襲われたんだ?と思った。
- ロッツが「誰か治してやってくれ」
- そうだねと頷く暇も無く、
- シルビア、私達とファナを見てホッとしつつ、ロッツの言葉を遮るように「現オラン王は暗殺された。グラムランド・サラ・オラン一七世が現在即位。全てはフラネの陰謀だったのだ」と話し出した。
- シルビス「フラネ生きていたの?」
- クリス「生きていたのか、あの男もしつこいな」
- ロッツ「オラン王暗殺されたのか、嫌な感じだな」
- また遮るようにシルビア「早く逃げろ」
- シルビス「またここでも逃げろって言うのか……」
- 逃げろと伝えたくて、来たのか? と思った。
- シルビア「冒険者風情が国家規模の陰謀を止められると思うな……、命を粗末にするな……、短い間、例え仮とは言え、お前達は私の部下だった……、こんな所で死なせるわけにはいかん……」
- 早くって、そんなに時間が押し迫っているのか? と思った。
- クリス「と言われても」
- ロッツ「何処へ逃げたら良いんだ?」
- まるでその時呟くようにシルビア「……こんな時エシャ隊長が居てくれたら…………」
- クリス「エシャ隊長って?」
- シルビア「エシャ隊長とは、孤児院出身でありながら、剣の実力とその強き運気だけでオラン軍の統括、今は第1から第3団まであるが以前は無く、軍全てを統括していたお方。皆を信用し、3つの部隊に分け、ギャグレイのひ孫である私達とフラネに各団を任された。私達は剣技をエシャ隊長から教わった」
- って事は、強いんだな、と思った。
- ロッツ「ギャグレイさんて?」
- シルビア「正義を重んじる人でした」
- それで、この姉妹、国家より正義なのか……と思った。
- シルビア悔し涙を流しつつ「彼等はアウグステを探している……」
- クリス「本当のアウグステの事か」
- シルビア頷いた。そろそろ話すのが辛くなってきているみたいだった。
- ファナがポツリと呟く「カストゥールに残る古代書には、神殺しの獣と浅海を繋ぐ場所に『魔法を隠す』とある」
- ……段々記憶とか戻ってきているのか? と思った。
- ロッツ「神殺しの獣と浅海を繋ぐ場所って言ったら、遺跡か?」
- クリス「俺達が通ったあの排水溝」
- シルビス「あそこに魔法を隠す?」
- ロッツ「そういや俺らは読めなかったけど」
- シルビス・クリス「それって?」
- ロッツ「広い、古い方の道の壁に模様が書いてあったんだ。所々ハイエンシェント文字が混じってたんだが、俺らソーサラーじゃないから読めなかった」
- シルビス「そんなの書いてあったんだ」
- クリス「俺らシーフ技能無いから気付かなかった」
- ロッツにこそっと、そう言えばその壁に印付けたよね、と聞いてみると、
- ロッツ「大丈夫。模様の上に付けてないから」
- 流石ロッツ。ロッツに任せて良かった。
- その時、雨のように矢が降り注いだ。
- オラン軍に包囲されていた。第1団総勢居るみたいだった。
- ロッツ「逃げよう」
- クリス「とにかく逃げるしかないな。しかし、どうやって脱出する?」
- シルビス「八方塞がりよね」
- ロッツ「矢を番えて一杯居るな……」
- クリス「ファナを守らなければいけないしな。しかし、レベル10相当なら自身は守れるかな?」
- ロッツ「ファナは無意識だろう、とにかくファナだけでもどうにかしたいよな、後ファナ、エマ、じゃけんのうジジイだけでも……、どうしようか?けど自己犠牲も嫌だしな」
- クリス「俺はこんな所で死ぬのは嫌だぞ」
- シルビス「嫌よね」
- クリス「俺は姉さんを探し出すという目的があるんだから」
- ロッツ「死ぬのは嫌だな、良く考えたらまだ船代返してないや」
- クリス「綺麗なお姉さんにか」
- ロッツ「そう」
- クリス「うちの姉ちゃんも一体何処行ったんだろ」
- シルビス「誰かもお兄さん探してたんだよね」
- いや、流されるままで、情報収集も何も出来ないまま、ここまで来ちゃった。
- ロッツ「しかし、見事に囲まれてるよな? どうすればいいんだ」
- シルビス「どうしよう」
- 隠者の里って言うんだから、何処かに隠れる場所無いの? と聞いてみた所、頭から否定された……。
- ここの人達は修行する事しか能が無いそうだ。
- ロッツ「ここに居る人達はここが最終の隠れる場所だから、それ以上開拓してる訳ないだろ」
- 生活きつければきつい程良いんだそうだ。
- 毎日修行三昧。
- 何が面白いんだろう。使ってこその技じゃないのか。
- 極めてみたいって、さっきのじゃけんのうじじいの話し聞いていたら、何だか無駄って感じ……。
- ま、本人の自由だけど。
- ロッツ「ある意味宗教じみてるよな……」
- それよりも。
- もう皆も脱出方法思い付かなかった。
- トイ・ホイ・クワ「しょうがないな」
- トイ・ホイ・クワとエマが前に出た。
- エマがブラッド・プロテクションを掛けた。ドラゴン魔法。私達に自分生命と引き換えに防御を与える。あらゆる攻撃からも身を守る、って、………………エマの命と引き換え?? 強行突破しろって? しかし、エマは? と思った。
- ロッツ「確かに助かりたい、が、それはちょっと」
- クリス「誰かの犠牲のもとに助かりたいとは思わないな」
- しかし、エマは問答無用で、掛け始めていた。
- 今までずっと一緒に居て私達ならファナを守ってくれる、任せられると思ったようだった。
- ロッツ「やめるんだ」と止めようとした、が、エマにっこり笑って自分の血を撒き散らしていた。
- 止める暇無く、魔法が完成させてしまったのだろう。
- 既に私達に防御効果が現れていた。
- トイ・ホイ・クワ「走れ!! それこそ走らなければ彼女の命は無駄になる!!」
- 逃げる事にした。
- クリス・シルビス涙目だった。クリス「今までありがとう」
- エマ、ぼろぼろになりながら、襲い掛かってくるオラン軍の中に消えていった。
- トイ・ホイ・クワも敢えて敵の攻撃を受けているみたいだった。私達への注意を逸らす為のようだった。
- トイ・ホイ・クワにとって死はたいした問題ではなかったそうだ。自分の能力はマギーに残したし、調べたい事は調べ尽くした。後、心残りはファナだけ。死に場所求めてうろうろしていたようなものだったそうだ。
- メテオストライク3倍掛けしようとしていた。
- 完全防御の魔法掛ってるとは言え、いつまで持続するかどうか解らない。折角2人が造ってくれた機会。全力疾走で逃げる事にした。