Kuu Takahijiri's Novel 4
アーリンの日記
その4
- 結局、ルバは壊滅した。
- クリスはシルビア担いで、ロッツは途中までファナの手を引いていたけど、途中からは担いで、船医さん、シルビス、私、順番も何も関係なく、とにかく逃げた。
- ちょうど蜂蜜茎を採った高原のあたりまで着いた。
- 一面緑の蜂蜜茎。
- そこから燃え盛るルバが見えた。
- ロッツ「嫌な光景だな」
- クリス「あぁ」
- ほんと。私達が行かなければ壊滅する事は無かった筈、と思った。
- ロッツ「俺達これから何処へ行けば良いんだ。このままずっと転々としていても、オランに付け狙われる」
- クリス「とにかく、シルビアを治せないか」
- じゃあ、ヒーリング掛けるねってことで、シルビアさんの負傷を完全に治した。
- シルビス「これからどうしようか。何処に行っても追われるんだよね」
- ロッツ「追われるの覚悟で、ファナの、カストゥールの謎解きに行かないか」
- クリス「そうだな」
- ロッツ「あの遺跡に潜るか。オートルから入る方法あるかな」
- 謎解きも良いけど、ファナの意志は?
- 取敢えず、今後どうするか、相談した。その為にも、現状の把握。
- クリス「シルビア、今オランはどうなっているんだ?」
- シルビア「暗殺と思っているのは私達姉妹くらいで、多少の亡禦の混乱はあったが、今はある程度落ち着いている」
- クリス「その新しく即位した人は、どんな人なんだ?」
- シルビア「当年4歳です」
- クリス「また4歳のガキか」
- シルビス「うーん」
- ロッツ「完全に挿げ替えられたか。傀儡。嫌な感じだな」
- クリス「もう1人の、本名ディアだっけ? あの人は?」
- シルビア「残っている。ディアと相談した結果、私がこれを伝えに来た」
- クリス「シルビアは何を望んでここへ来たんだ?」
- そうよね。私達がここへ来たのは偶々だし。
- シルビア「トイ・ホイ・クワと初代アムさんに接触を図りたかった。その為にオートル、ルバへ来た。辿り着いた時、君達が居た。後の事はなるべくなら介入しないで欲しい。命に関わってくる。国対個人になるのだから」
- そう言われても、既に退けるような状況とは思えなかった。
- クリス「初代アムさんを知ってるのか?」
- シルビア「話には聞いているが、実際に会った事はない。ただ、そう祖父ギャグレイから『オランに何か有ったら、彼女に頼れ』と言われていた」
- ギャグレイ家の中でのアムさんはかなり神格化されているそうだ。トイ・ホイ・クワとアムさんは、どの権力にも従わない。2人の生き方がそうしたのかもしれないが。様々な人に多大な影響を与えた人だったみたい。
- クリス「で? 接触を図って、どうしたかったんだ?」
- シルビア「フラネをどうにかしたかった。陰謀をどうにか」
- クリス「フラネをどうにかしないと結局はどうにもならないのか」
- シルビアにとって、初代アムさんはある意味ジョーカー以上の切り札だったそうだ。初代アムさんは『銀光の牙(シルバーファング)』。戦闘における貫通力が滅茶苦茶ある人だそうだ。最悪自分が罪を被っても、フラネの生き方・考え方、これからやろうとしている事を止めれば、オランとアウグステは何とかなるかもしれない。国の一部、軍内部のクーデターと言う事だけで済むと考えたそうだ。
- ロッツ「確かにな」
- クリス「最終目標はフラネをどうにかしなければいけない、か。しかし……」
- レベルが違い過ぎる。直接正面から行ったのでは歯が立たないだろう。それにオラン軍が居る、フラネの元まで辿り着けるかどうか、と思った。ただ。シルビアを軍が追って来た。その命令をしたのはフラネ。という事は、もしかしたら、近くに居るかもしれないとも思った。
- ところで、
- エマのブラッド・プロテクション、まだ持続している。もう切れてもおかしくないのに。ブラッド・プロテクション、術者の生命の続く限り続くそうだ。
- って事は、掛けたのが別の人なの? と皆に聞いてみたところ、
- ロッツ「違う」
- クリス「エマがまだ生きているのか?」
- ロッツ「いや、確かに死んだ所を見たわけじゃない」
- クリス「でも、何故だ?」
- シルビス「……ドラゴンになったって事?」
- リボーン・トウ・ドラゴン。
- 決して割れない卵となった。彼女がドラゴンとして生きている間、ずっと持続する。全ての呪文解除すら効かないそうだ。ドラゴンプリーストのままなら魔法が持続する限り生命力は回復しない、しかし、ドラゴンとなった為、無効となった。人間である事をやめた為、記憶は継承されないそうだ。意識としてそのままあるだけ。いつ孵るか解らない。
- ロッツ「その卵だけ持って歩きたい気分だが、戻りたくない様な気分だな」
- クリス「今戻ったら炎に巻かれるぞ」
- ロッツ「いや、終った後で。壊滅した所に卵のまま残ってるんならその卵持っていきたい」
- クリス「どんな大きさなんだろうな」
- シルビス「ドラゴンの卵だから大きいんじゃない?」
- クリス「ずた袋に入れて持ち歩くか? そのままにもして置けない気もする」
- シルビス「でも、かえってそのままにして置いた方が良いんじゃない?」
- ロッツ「かえって守られるか、廃墟になってるから」
- 話している最中も蜂蜜茎の上に居たんだけど、足の裏からちょっと熱を感じた。
- 蜂蜜茎自体が熱を帯びていた。
- シルビス「蜂蜜茎って薬にもなるのよね」
- ロッツ「熱を持ってるって事はどういうことなんだ」
- 蜂蜜茎の地上に出ている全部が火に向かい始めていた。ゆっくり頭をもたげていくような感じだった。
- ロッツ「変った光景だな」
- クリス「考えてみれば、蜂蜜茎って滅茶苦茶怪しいよな」
- シルビス「何なんだろうね」
- 蜂蜜茎。
- ファーランド特有の1つの自然形態。
- 万能薬になる、つまり、全てを浄化する。唯一人間の手を加えられていない、天然の物。
- ほとんどの薬草は、加工とか人の手が必要。薬の考え方や手法はカストゥールから引きずっている物も在れば、僧侶達が編出した物もある。しかし、何種も混合しなければいけない。
- 蜂蜜茎に守られる者はファーランドに必要とされている人間なのかもしれないって事かな等と皆で言い合った。
- クリス「今俺達がしなければいけない一番大事な事はファナを守る事。色んな人間から託されているよな」
- 守りたいと思ったから、っていう単純な理由なんだけど……、そっか。それもあるかな、と思った。
- ロッツ「ファナ自体もそうなのか」
- 蜂蜜茎自体、ファーランド特有の訳の分からない極悪な植物、もしかしたら動物かもしれない。ファナが蜂蜜茎自身に守られた少女なのかもしれない、とか言い合ったけど、結局、本当の所は良く解らなかった。
- ところで、
- これからどうしようか私達。
- シルビス「どうしよう。守るって決めても、その後」
- クリス「問題は」
- シルビス「身を隠すにしても逃げるにしても」
- クリス「結局は出なきゃいけないな」
- シルビス「ここからね」
- クリス「しかし。身を隠してるだけでは情報を得られない、が、姿を出してしまえば狙われる」
- ロッツ「……取敢えず、遺跡行くか?」
- クリス「老公の翼の遺跡?」
- ……それって、何処? と思った。
- ロッツ「いや、模様がびっしり刻まれてた」
- クリス「ああ。取敢えず、あそこからアウグステには入れるよな」
- ロッツ「でもオートルからしか入れないしな」
- そうなの? アウグステからじゃないのか。中広かったから、どの範囲までなっているのか知らないけど、と思った。
- シルビス「え、でも、遺跡から入って何処か通路探せば」
- ロッツ「あ、そっか。遺跡って高原の途中に有ったんだよな」
- ……そうなんだー、地上に上がらなかったから何処まで行ったか知らなかった。流石ロッツ。
- クリス「じゃけんのうじじいの住処」
- ロッツ、クリス、シルビス「「「でも封印されている筈だよな(ね)」」」
- ……それって、何処の遺跡? 排水溝の話をしていたんじゃなかったの? それともあのミスリルゴーレムが居た場所の事? と思った。
- シルビス「あ、でも、何処かに入口有ったよね。下水道探索していた時、崩れかけた入口何処かに有ったよね」
- クリス「ああ、モンスターの住処の所な」
- シルビス「塞がれているとも何とも聞いてないよね」
- クリス「でも、報告したからどうなったかわからないけど」
- シルビス「でも上手くすれば崩せるかもしれないよね」
- クリス「探す? 何処だかわからないのを」
- シルビス「でも緑の中っていうのは解っているよね」
- クリス「でも、オートル自体が山の中だからなー」
- ロッツ「俺達が報告したのって副官だよな」
- クリス「シルビア、あれってどうなったんだ?」
- シルビア「取敢えず隠蔽はしてあります」
- シルビス「隠してある?」
- クリス「場所は? ……あ、そう言えば聞きたかった事あったんだ、どうしてミスリルゴーレムって聞いた時顔色変えたんだ?」
- シルビア「そう祖父の遺言なのです」
- シルビス「遺言って?」
- クリス「あれに近づいたらいけないとかか?」
- シルビア「ミスリルゴーレムは龍の墓を守っているのだ、と幼い頃聞かされていました。もしそれに敵対する行為自体はファーランドに敵対する事なのだ、と」
- クリス「つまり、俺達が攻撃感情を持ったんじゃないかとかそういう心配したのか?」
- シルビア「ええ。それとあと、本当に居たのだと驚きました。そう祖父はやはり本当の事を言っていたのだと」
- シルビス「嘘は言っていなかったと」
- シルビア「ええ。ミスリルゴーレム自体がほとんどいないので、実在と言うより」
- ロッツ「伝承の1つと思ってもおかしくないもんな」
- シルビス「遺跡を守ろうとしてるだけみたいだったよね」
- ロッツ「あの会った時、敵対意識は無かったよな」
- クリス「害はなかったよな」
- シルビス「攻撃意識が無かったから」
- クリス「取敢えず見ただけだったし。俺達目が合って、どうしようかと思ったけど、そのまま行っちゃったから、思わずお辞儀しちまったよ。なるほどー、だからあの時見逃してくれたっていうか、敵対者としてみなかったんだ。じゃあ、それを利用するしかないか」
- シルビス「そうね。そこで隠れていれば一応は」
- クリス「でも、隠れているだけじゃ何の解決にもならない」
- シルビス「いや、だけど、隠れて」
- ロッツ「隠れると同時にファナの目的を果たす」
- ファナあんまり喋ってくれないから目的って今一解らなかった。
- 建国しても、今まででオラン寄りになっているアウグステの人達が、賛同してくれるかどうかもまだわからないのに、と思った。年寄りの人達は、アウグステ、もともとは単体だったってのを知っているけど、その子供や孫らは、オランがあって当り前になってるだろうし。国民が居ない建国なんて虚しいぞ? ま、取敢えず建国して、それに賛同する人達が国民となるって事も考えられるけど。
- しかし流石ロッツ。ファナともちゃんと話してるのね。保父も出来るぞ、と思った。
- シルビス「拠点っていうか、砦? 基本となる場所」
- ロッツ「ファナを解放というか、キーは、多分あの遺跡にあるだろ」
- クリス「あの入口探すか」
- ファナとあの遺跡って本当に関係あるのかな、と思ったので、シルビアに、何か知ってる? と聞いてみたが、何も知らないと言われた。
- 行ってみて無駄足だった場合、砦にはなるけど、袋小路に自ら入る様な物、最終的には身動き出来なくなる、と思った。
- しかし。
- このまま、フラネの陰謀が成ってしまうと、私達はお尋ね者のままよねー。
- ロッツ「反逆者扱い」
- クリス「しかも、脱獄までしてるし」
- シルビス「見つけたらどうなるか」
- シルビア「フラネの野望の達成にとって、貴方達は邪魔でしょう。ファナを守っているので」
- ロッツ「見たら殺せ状態かな」
- シルビア「見つけたら殺せではなく、既に送り込んでいるので。積極的に何らか動いている思います」
- ファナにアウグステの独立をしてもらった方が私達としては良いのかな、と言ってみた。
- 独立してもらって、フラネに対抗できるような権力というか力が有った方が、今後いいんじゃないかな、と思ったのでそれをそのまま口にしてみた。
- フラネがファナに執着するのってアウグステが関係しているみたいだし、本当のアウグステには何か有るのかも、フラネに対抗する為には国家権力もしくは古代の力が有った方が動き易くなるだろうし、と思った。ファナに継承の儀式をしてもらって、ただ、継承の儀式が簡単に見つけられるか出来るかどうかが問題だけど、それに、失敗したら私達は永久反逆者、でも、このままではジリ貧、逃げ場に困るのは想像に難くない。
- 独立といっても国民が居なければ意味が無い事は解っている、けど、独立宣言すれば多少の波紋は起こる筈。それに、古代国家の流れを受け継ぐのなら、何らかの古代の力がアウグステに有るかもしれない。
- 取敢えずフラネをどうにかしたかった。
- フラネに対抗する為の何らかの力が欲しかった。現状のままぶつかっても、力の差は歴然、ただ当って砕けてしまうだけになる可能性の方が高い。当って砕けろで運を天に任せるだけで物事が都合良くいく事なら誰も苦労はしない。運命の女神はフラネに微笑むかもしれない。
- ファナ。こんな小さな少女に重責を負わせるのは酷かもしれない。
- 例え平凡でも、権力など無い方が、平穏に過ごせる方が、ファナにとっては幸せかもしれない。だが。フラネの望む事。ファナの死なんて嫌だった。いや、ファナだけでなく全員死ぬだろう、ファナを守る為に。それも絶対嫌だった。
- 打てる手は全て打っておきたい。なるべく可能性高くなるように。可能性の高い賭けになるように持ち込んでいきたい、と思った。
- が、そういった力に頼らず、自らの力だけでどうにかしたいと言われれば、それならそれでも良いか、とも思った。将来設計は変らない。
- でも。それとは掛離れているけど。冒険。自分のやりたい事、信じる事に自分を賭けて、自分自身の力や運を試してみたいという気持ち。冒険者を志す者の気持ちをこの時何となく少しだけ解ったと思った。
- ま、この時だけで、将来設計は変わらないけど。
- とにかく、自分だけではどちらが良いのか決められなかった。ただ単に自分が生き延びたいがために、ファナを巻き込んでしまうだけになるかもしれない。結局決められなくて、利点が高いと思われる方の考えを口にした。
- 皆、それぞれ様々に思うところはあったみたいだった。
- けれど。取敢えず、独立、やってみるか、と言う事になった。
- シルビス「って事は、私達は、ファナが王様になるから、私達は従者って事? 騎士って言うか」
- クリス「オレ、は、騎士、だよな」
- シルビス「ナニ?」
- ………………………………………………………………凄い。
- こんな時でも掛け合い漫才。というか、何か刺を感じたんだけど。クリス、私達は論外って事、言っているのか? と思ったら、
- クリス「いや、俺ファイターレベルしか高くないから」
- ……単なる天然だった。
- クリス「どうやってファナに継がせるか」
- シルビス「儀式に使う杖はあるから」
- クリス「何故杖を儀式に使うんだろう」
- シルビス「シルビア知らない?」
- ロッツ「知らないんじゃないか。どうなんだ? シルビア」
- シルビア曰く、デボネは杖が有った方が良いと言っていただけ。ディアの方、三日月も絶対と言っていたが、同じ事だそうだ。
- 解っているのは、有った方が良いって事くらいか、と思った。
- クリス「あれ? そういやどうしてファナは三日月に居たんだ。誰が連れてきたんだ? 偶然なのか?」
- ロッツ「まあ、偶然に近いんじゃないか」
- シルビス「裏で、例の杖を置いていった人の暗躍があったかもね」
- ロッツ「じゃけんのうじじいだな、キーワードは」
- クリス「死んじまったけどな、多分」
- じゃけんのうじじいは杖に関しては詳しいのかな。継承の儀式に関しても何か知っているかな。
- シルビス「家に行けば」
- クリス「でも、全部読めなかったよな」
- クリス「正式の継承の儀式にしろ、アウグステの場所にしろ、あの地下の排水溝に書いてあるんじゃないか?」
- でも、私とロッツじゃ読めなかったし、クリスとシルビスは気付かなかったから、確証はない。可能性はあるけど、無駄足の場合も有り得る。無駄足の場合、逃げ場の無い袋小路に嵌まるようなもの、と思った。
- シルビス「でも、今の話を総合的に考えると」
- クリス「確か、辛うじてハイエンシェント文字があったんだろ?」
- そうだけど。ハイエンシェントもあったけど、そうじゃないのもあった。
- クリス「だから、ソーサラーはシルビスだけだから、それに、ファナが行けば何かわかるかもしれない。後はファナの意志次第」
- ロッツ「ファナに、これ読めるかと聞いて、読ませてみる事は出来るけど」
- クリス「俺達が無理矢理連れて行って、ああしなさいこうしなさいとは言えないよな」
- シルビス「ファナの意志次第よね」
- クリス・ロッツ「ファナ自身がこれからどうしたいか」
- ファナにとって、私達は第一の家臣のような、身近な者達となっているそうだ。自分を一生懸命守ってくれたエマの死、それを目の当たりにして、ショック。これ以上そういった事が起こらないようにしたいそうだ。
- ロッツ「あのじいさんに会った事ある?」
- クリス「トイ・ホイ・クワに会った事ある?」
- ファナ「あります」
- クリス「いつ?」
- ファナ「あの人に起こされたから」
- クリス・シルビス「「起こされた?」」
- ファナ「はい」
- シルビス「寝てたって事? 長い期間」
- クリス「何処で起こされたの?」
- ファナ「私はずっと寝ていました」
- クリス「目覚めた場所は何処?」
- ファナ「目覚めたと言うか起こされた場所は、詳しくは解りませんけど恐らくアウグステの地下だったと思います」
- クリス「俺らが解っていないあの枝分かれした何処かって事か?」
- シルビス「枝分かれしていたのは新しい方よね」
- ロッツ「それ以外に本流が有ったよな。その本流の何処かじゃないか?」
- ファナ、行けば解るかな。
- クリス「俺達が見落としていたのか」
- ロッツ「本流ったって広いから、俺達は解らなかったんだろ」
- ファナ「起きたばかりで、意識朦朧としていたので、正確には覚えていません」
- クリス「起こされてその後どうしたの?」
- ロッツ「その後何があった?」
- ファナ「その後タラスに引き取られて、今に至ります」
- シルビス「それは何年前の事?」
- 私達が張り紙を見た頃と同時期みたいだった。
- クリス「そういうのあるのかな? 年を取らないで眠り続ける事って出来るのかな」
- シルビス「今は知らないけど、昔の、古代カストゥール時代には有ったかもしれない。失われた魔法」
- クリス「三世までは血が繋がってんだよな」
- 実際の血縁かどうかわからない、一世で切れている。
- クリス「一世の娘とかいう?」
- 一世の娘か、血は繋がっていないがカストゥールそれに属する高貴な存在かもしれない。
- クリス「唯一の生き残り」
- 眠る前、何処に居たか覚えてる?
- ファナ「少なくともここではないです」
- クリス「どんな感じの所だった?」
- ファナ「もっと人が沢山いて、私は庭の方で自由に遊べていました」
- シルビス「アウグステ?」
- ロッツ「ファナは起こされて以降の記憶は、普通の人間として扱われていた記憶だから、ファナ自身は古代カストゥールのどうのこうのは、あまり良く分かっていないんじゃないか?」
- シルビス「10歳の子供だもんね」
- ロッツ「多分。トイ・ホイ・クワが、その時点で何か言わない限り、あるいは、エマが何か言わない限り、彼女はわかってないんじゃないか、はっきり」
- エマはファナが間違いなくそういった者であると、自分達のドラゴン信仰すら認めてくれる、王国の高貴な血の者である、とわかったから、彼女は自分の肉体を犠牲にする事を厭わなかったのかもしれない。
- ロッツ「それは、エマの考えで。ファナ自身はどうなのか。彼女自身の意識としては、守ってくれるってだけだろ? アウグステ一世からの盟約って言っても、ファナ自身はあまりそういう事考えていないんじゃないか」
- クリス「ファナは自分の事分かってないんだろ?」
- ファナ「分かっていません。ですが、成すべき事は、もう考えています」
- ロッツ・クリス・シルビス「「「成すべき事って?」」」
- ファナ「エマとの約束を守る事」
- シルビス「っていう事は、王位に就くっていう事?」
- ファナ「そうです」
- ロッツ「だから、それぐらいしか分かってないんだよな」
- クリス「自分が本当にカストゥール時代の血を受け継いでいるとは、わかっていないんだろ? ただ、皆がそう言っているから、じゃあ、なりましょう、と言うか、遺志を継ぐと言うか」
- ロッツ「エマとの約束は守らなくては? トイ・ホイ・クワとの約束とか、そういうのを守らなくてはって考えてるんだろ? ただ、俺としては、そういうごちゃごちゃした、王位だの何だのっていうのは考えてないんだろなと思うけどな。古代王国の人間だってそこまで詳しくは」
- タラスは、彼女をずっと王女として育てた。というか、短い間だったけど、そういう存在として接した。
- ロッツ「何処かの国の王女としての意識があるんだろ?」
- ファナは、記憶が無いのでその事に付いて否定も肯定も出来ないから否定も肯定もしなかったそうだ。
- けど、彼女はこれから冒険に行こうとする者達などに、それなりに気を使っていた。ロッツと私の時の様に。彼女の考え方としては、これ以上不幸なものは見たくないそうだ。
- ロッツ「誰か死ぬのも嫌だ、って?」
- エマが死んだのもかなりショックだそうだ。
- ロッツ「自分の知っている人間がほとんどいなくなってしまったしな。俺達以外は」
- そうよね。ファナは元々牢を抜ける時も、自分が死んで、皆が助かるなら、
- クリス「自分が死んで皆が助かるなら、それで良いって言ってたよな」
- そんな考え方を普通の10歳の少女が出来るかどうか。
- シルビス・クリス「「出来ないよね(な)」」
- そういう高貴な血を引いている者なら、そういった事考えるかもね。
- ロッツ「でも、10歳だから余計に、自分の身近な人の死がどんどん居なくなっていくのが純粋に嫌なんじゃないか」
- シルビス「シンプルと言うか、他の事まではね」
- クリス「王位とか関係ないのかもな」
- ロッツ「自分の好きな人の問題で」
- でも、人を思いやる事、それは人の上に立つべき者として与えられた資質かもしれない。普通は、権力というものに対して執着するよね。フラネは権力、自分の高い位置を求めていると思う。
- けど、ファナは違う。正反対。
- 王国の二世三世が、欲が無い、馬鹿だといわれるが、それは彼等は王になるべく育てられた人間だから。帝王学等で、人を支配する事よりも、まず人の心を理解する事、何が大切で何を捨てなければいけないか。どんな苦渋の選択でも、自分がその選択を取らなければならない時がある、それを学んできている。意識はしなくても、潜在意識で持っているというか、雰囲気、そういった状態で育っているから。それに対して、そうではない状態から始まった者は、あれも欲しいこれも欲しい、小さな欲望からどんどん大きくなって行く。
- ロッツ「それらがすっきりして、逆に、本当に自分の大切な者だけを守りたい意識があるんだろな」
- 知ってしまった者の強さかもしれない。
- ロッツ「ファナの今守りたい対象が私達にあると。逆に言ってしまえば。これ以上大切な人を」
- ファナにしてみれば、現状は、はがゆい、本当であればあの時のメテオストライク、自分が放ったという覚えはあるが、どうやったのか覚えていないそうだ。メテオストライク唱えて死んだトイ・ホイ・クワなどのように魔法を意識的に行使出来ない。彼女は冒険者ではないから結局何にも役に立たない、要するに、魔法や冒険技能を持たない何にも役に立たない自分が、彼等の遺志を継ぐ為に出来る事は一つしかないと思ったそうだ。
- ロッツ「自覚してどうこうではないんだな」
- シルビス「王になるべき者?」
- ロッツ「取敢えずこれ以上自分が必要としているものを失いたくないんだな」
- クリス「でも、だからといって、」
- ロッツ「無理矢理連れていくのはどうかと」
- ファナは、行く事を決めたそうだ。
- シルビス「これからどうするか決めたんだね」
- ロッツ「なら話は早い」
- ファナ「付いてきてください」テケテケ歩きだした。
- ヲイヲイ。
- シルビス「何処行くの」
- クリス・ロッツ「ちょっと待て」
- ロッツ「まず俺達の頭を整理させてくれ。次元が違うんだから。取敢えず俺達付いていくか」
- シルビス「うん。彼女を守る」
- クリス「彼女を守る。っていうか託されているから。でも問題は」
- シルビス「これから」
- クリス「何処に行くのか? やっぱり遺跡しかないよな」
- ロッツ「だろうな。継承の儀式はそこだろう」
- クリス「多分そこに、答えは無くても、ヒントくらいはあるだろ」
- ロッツ「ミスリルゴーレムがいて、俺達敵対視されていない。俺達はファーランドに守られている人間かもしれないし。蜂蜜茎の話ではないけど。遺跡に入る事自体は危険じゃないだろう」
- クリス「モンスターは危険だけどな。ただ、穴を探すのがなー」
- シルビス「シルビアは知ってる?」
- シルビア「はい」
- シルビス「じゃ、取敢えずそこから入ろうか」
- クリス「ただ、そこから入っていって、ミスリルゴーレムの目の前に落ちるって事はないだろうな(苦笑)」
- ロッツ「取敢えず、そこへ行こう」
- 当たりに人影が無いかどうか確認しつつ、進もうかという話に落ち着いた。
- さて、この遺跡、調べますか。
- 後で解った事だけど、ここはオートルの遺跡の一部。ミスリルゴーレムが歩き回れるくらいのだだっ広い真四角の部屋だった。
- この部屋をまず調べてみようか。
- 大体アウグステ側が南側だから、まず北側の壁から調べた。
- 広すぎるので、ロッツと私がシーフ技能有るから、2人で手分けした。私の方で良く分からないもの見つけたけど、何なのか解らないから、ロッツを呼んで調べてもらった。
- ロッツ「これは……何だろうな。一枚の岩の隅に何か書かれているみたいだ。コモンルーンじゃないな。シルビスー」
- とシルビスを呼んだ。
- シルビス「なになにー。あーこれはねー。えっとー。隠し通路のスイッチみたいよ、この一枚の岩が。そう書いてある」
- ロッツ、罠感知。多分罠はないそうだ。何らかの形でこの岩をどうにかすれば、隠し通路に行けるみたい。
- クリス「でも、これってオートルに通じているんじゃないか?」
- ロッツ「ここはオートル側の遺跡の真下くらいじゃないか。北面だから、オートルの奥を調べてる事になるんじゃないか? アウグステじゃなくて」
- クリス「一応調べてみるか?」
- ロッツ「一応調べよう。隠し扉って事は何かがある筈だし。じゃなきゃ隠し扉の意味が無いよな、意図として」
- シルビス「何か有る筈よね」
- 取敢えず、何も解らない状態だから、調べられるだけ調べようよ。ヒントでも有れば儲けものって事で。
- 下の部分を押せば開くみたいだったが、押して開いたとたん、扉がこちら側に倒れてくるかもしれなかった。
- 文字が書かれている近くのピンポイントを押すと、開くみたいだった。
- ロッツ、飛び道具有るよねー。
- シルビス「皆下がろう。ロッツ頑張ってねー」
- 皆で「「わーい」」と言ったら、
- ロッツ「をい。持ち上げないでくれー。緊張してきたじゃないか」
- シルビス「ファナ、一言ロッツに激励してあげて」
- ロッツ「何で子供に激励されなきゃならないんだ」
- クリス「次期女王様だよ、あ、違った、王女様か」
- ファナ「失敗しないでくださいね」
- 皆ちょっとにやにやしながら見ていた。一応何が出て来るか解らないから皆そこから離れた。
- ロッツ、どんぴしゃで命中。